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○2009第3回フィランスロピー研究会の記録

開催日時;2009年12月5日(土)、午後2時より7時

開催場所;東京大学本郷キャンパス・経済学研究科棟10階・第4共同研究室

報告者;須田木綿子(東洋大学社会学部教授)

報告論題;「民営化された公的サービス領域における営利-非営利のダイナミクス:         ――日米比較の視点から――」

報告概要;米国では、日本の公益法人に類似の非営利組織(501[c][3]、および501[c][4])が対人サービスを供給してきた。 1996年にクリントン政権が生活保護を民営化した結果、非営利組織に投入される連邦政府予算も、結果的に増加した。 他方で、規制緩和により、営利組織も生活保護関連事業に参入するようになり、互いに競争する場面も増えた。

その結果、まず、増大する行政資金を目当てに非営利組織が増え、競争が増加した。また、営利企業の参入により、非営利と営利の間の競争も厳しくなった。 行政資金の適正使用への要請が、両民間組織に対し、数値で把握できる成果が求められるようになった。加えてモニタリングの強化により、組織の裁量範囲は狭くなった。 また、成果主義の強調は、行政資金がサービス提供組織への支援の形から、バウチャー等のサービス利用者側への支援や出来高払いに変わり、組織間の競争は加速され、組織の財政も不安定さを増した。

こうした環境変化に対応するために、まずは、組織の商業化が進められた。 特に、組織の財源としての行政資金に依存していたのでは、必要経費が不足するので、財源確保のために、サービス利用者から直接サービス料を課すことによる事業収入の確保を目指した。 研究者によって数値の違いがあるが、1992年から2005年の間で、事業収入は18~30%の増加、行政からの助成金等は7%減少、寄付額はほぼ横ばいであった。 次に、組織行動の変化として、支援やサービス対象者を、サービス料をとれる富裕層にシフトした。営利企業と協働して商品開発・販売を始めた。ミッションと関係のない収益事業に進出した、等が見られる。

こうした経緯を踏まえ、改めて非営利組織の存在意義とは何かを考えてみると、米国のフィランスロピーの歴史は、mutual help概念を中心として、行政・営利・その他から構成されてきた。 現状での問題点としては、商業活動のための資金とスタッフの負担増。個人の欲求の充足と、公益や社会正義理念の衝突。非営利組織のミッションの漂流。 商業に傾斜する非営利組織への寄付の減少。非課税-非営利組織と課税=営利組織の不公平、等が挙げられる。(文責=岡村)

 非営利組織(501[c][3]、および501[c][4])の今後については、営利組織との競合により、非営利組織固有の活動領域の維持をますます困難にしていくであろう。 商業化の流れの中で、組織の生き残りや組織の拡大が自己目的化した結果、もはや本来の役割であった市民社会の中核的存在からずれた活動に傾斜しており、 そうであれば、今後は、社会の動きの監視役、社会が見過ごしている問題の啓発や、少数市民の利益代弁といった脇役に退くべきだ、といった悲観的見解が見られる。

 このような米国に関する分析を踏まえ、続いて日本に関する研究状況と実態調査の紹介があり、長時間にわたって濃密な議論が展開された。

*上記報告の終了後、ドイツ人研究者を迎えてのフィランスロピー研究会、および「大原社会問題研究所雑誌の特集号(フィランスロピー研究の課題と展望)」について、話し合いを持った。 (文責=岡村)