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○フィランスロピー研究会(2008年度第4回)記録

( 2009年3月4日岡村作成)

日 時;2009年2月28日(土)午後1時~6時半
場 所;東京大学本郷キャンパス・経済学研究科棟・10階・第4会議室
報告者と論題(敬称略);
① 菅冨美枝(法政大学)「「エンパワーメント」と法(自律の実現に向けた社会構築)――現代社会における「支援型」法の役割」(参考文献:「高齢者介護・成年後見とエンパワーメント」『法の理論26』成文堂,2009年刊行予定,pp.177-204)
② 金澤周作(川村学園女子大学)著『チャリティとイギリス近代』京都大学学術出版会,2008.の合評会――コメンテータ:高田実(九州国際大学)

記 録;①については、最近の英国で話題になりわが国でも議論されてきたエンパワーメントの概念を巡って、法の背後にある英国と日本の社会・文化の違いにより、法のあり方も相違してくるという説明があった。わが国の公共性は、基本的に政府の独占物であるかのように扱われるので、成年後見制度に関しても、任意後見受任者は、まるで監視対象とみなされ、みずから支援行為を行うのを躊躇させられている実態がある。他方、被後見人は、禁治産者のように扱われ、自立した一人の人格者としては扱われない。

このような扱いに比し、最近登場してきたエンパワーメントの考え方によると、被後見人の意思を可能な限りできるだけ尊重する態度が見られる。つまり、被後見人をできるだけ「自律」するよう「支援」して、彼らが自ら判断・行動できる人格になるように扱おうとする。

こうした日・英の相違は、ボランタリーな活動の位置づけに関しても見られるものであり、単に英国のやり方を真似ればよいというわけには行かない。ここにわれわれにとっての「困難」がある。
②については、まずは、金澤氏の解説により、この書の目的は、より妥当なイギリス史像の構築にあること。立場として、既存の研究史や個別研究に収斂しないことにあるとされ、チャリティの全体的な概観を、自助・互助・チャリティ・救貧法という図式において位置づけたものだとされた。

これを受けて高田氏から、同著に関し、チャリティの量的な全体像把握、イギリス近代社会をチャリティ社会として把握したことの画期性が強調された。特に、連続性・5類型論・受け手への言及等が挙げられた。疑問(質問)点として、チャリティの「動態的」把握、チャリティ・フィランスロピー・ヴォランタリズムの関連性、特に、互助とチャリティの位置づけ、「機能」等が挙げられた。以上を踏まえて、質疑・応答がなされた。

本書は類型論=「静態的」把握であることや、旧来のイギリス史の発想を批判するあまり、富裕者から困窮者への富の移転の社会的な機能的把握が弱いという点を差し引いても、チャリティを「民間非営利の自発的な弱者救済行為」として定義した上で、5類型論によりチャリティの全体像を描き、それをもってイギリスを「慈善社会」として捉えた、チャリティ研究における画期的な成果であることは間違いない。