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○H17年度からH19年度の共同研究の紹介


(1) 研究会活動
準備の研究会を、進化経済学会のセッションの一部として、2005年3月27日(日)東京工業大学において開催した。いわば第0回研究会である。岡村東洋光(九州産業大学)「19世紀後半から20世紀初頭にかけての、企業家による労働者向け住宅供給の諸類型について」、金澤周作(川村学園女子大)「18世紀半ばから19世紀後半にかけての、イギリスにおける慈善活動の諸類型と規模」の報告があった。

平成17年度は、第1回研究会を2005年8月6日(土)に九州産業大学において、高田実(九州国際大学)「近代イギリスにおける相互扶助とフィランスロピー~国際比較の視点から~」、島浩二(阪南大学)「イギリス住宅改良運動における相互扶助と慈善」、第2回研究会を2005年10月29日(土)に神奈川大学において、平尾毅「19世紀英国産業における工場村の変遷」、岩間俊彦「企業家と地域社会:19世紀第一半世紀のハリファックス」、第3回研究会を北海道大学において、2006年3月26日(日)に、進化経済学会北海道大会のセッションとして行い、報告は、栗田健一(北海道大学大学院)「草稿スキームにおける地域経済の再生構想---C.H.ダグラスの経済思想再考---」、宮腰英一(東北大学)「19世紀イギリスの基金立学校改革とチャリティ」、長谷川貴彦(北海道大学)「博愛主義的団体と社会改革~19世紀初頭イングランドの国家と社会~」であった。

平成18年度に第4回研究会を、2006年6月10日(土)に九州産業大学においておこなった。報告は、吉田正広(愛媛大学)「第二次世界大戦期におけるイングランド教会と社会改革――ウィリアム・テンプルの活動を中心に――」、松塚俊三(福岡大学)「識字と読書の社会史――最近の研究動向の整理――」であった。第5回研究会を10月1日(日)神戸県民教育会館において、井野瀬久美惠(甲南大学)「「博愛主義者」エドワード・コルストンの記憶」、並河葉子(神戸市外国語大学)「福音主義者と博愛主義」でおこない、第6回を12月2日(土)に九州産業大学において、水野祥子(九州産業大学)「『イギリス帝国からみる環境史』をめぐって」、香川せつ子(西九州大学)「ヴィクトリア期の女性と公共圏」で行い、第7回研究会を2007年2月24日(土)に、神奈川大学において、永島剛(専修大学経済学部)「イギリス保健行政における中央と地方:1871~1919」、赤木誠(一橋大学経済学研究科、大学院生)「20世紀慈善団体における保革連携:リヴァプール中央救済・慈善組織協会の家族給付政策を中心に」でおこなった。

平成19年度は第8回研究会を、2007年6月30日(土)九州産業大学においておこない、山本卓(立教大学・院)「19世紀末期のCOS(ロンドン)の救済活動」、山本通(神奈川大学経済学部)「シーボーム・ラウントリーの住宅政策」の報告があった。そして、第9回研究会を2007年12月22日(土)、川村学園女子大学において、金澤周作(川村学園女子大学)「慈善信託法(1853年)の制定過程――否決・廃案の10年をめぐって――」および光永雅明(神戸市外国語大学)「君主制の動揺と都市空間――ミース卿のロンドン緑地構想の展開」でおこなった。

 いずれの研究会においても、内容の濃い報告と活発な議論を行うことができ、本共同研究参加者一同、多方面にわたり認識を深めることができた。報告を引き受けてくださった方々、および研究会に参加してくださった方々には、この場を借りて御礼を申し上げたい。


(2)最終年度の報告書の構成は以下の通りである。

序章  岡村東洋光

第1章  金澤周作
「慈善信託法(1853年)の長い制定過程---チャリティにみるイギリスの自由と規律---」

第2章  光永雅明
「フィランスロピ活動と王室---ミース卿によるオープン・スペースの整備を題材に---」

第3章  岡村東洋光
「5%フィランスロピー活動の意義と限界---ウォーターロウと工業階級住宅改良首都協会を中心に---」

第4章  山本通
「英国の住宅問題におけるフィランスロピーと国家福祉---B・シーボーム・ラウントリーの活動を中心に---」

第5章  高田実
「全国預金友愛組合と老齢年金---第一次大戦前イギリスにおける相互扶助の変質と国家福祉の登場---」

終章  岡村東洋光
これらの報告は、近々研究会の参加者による追加的な論文を数本加えた上で、『福祉社会とフィランスロピー』というタイトルの書物になる予定である。
以上の共同研究を通して明らかになったことは、イギリス社会が、チャリティ、フィランスロピー、相互扶助の多様な、重層的な構造を持ったセーフティネットによって支えられた社会であること。そして、近代的な市場社会においても同様であり、実はこのような重層構造を持っている社会なのである。

したがって、(広義の)フィランスロピーを、単なる寄付や遺贈、金銭を伴う善意の行動・個人的なサービス・労働といったレベルで捉えたり、親切な行為の歴史、あるいはボランタリーな行動の歴史、さらには貨幣の寄付による非法令的な福祉対策と見なすだけでは不十分であるのみならず、また、それは利潤の非分配と利潤分配であるとか、私的・個人的アプローチと公的・集合的アプローチの違いといった論点だけでは語り尽くせないものである。福祉国家の歴史(と限界)を知るわれわれは、(広義の)フィランスロピーが政府と市場関係の単なる補完物ではなく、われわれの未来社会のあり方を示唆するものである、と考えている。