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2008年度第3回フィランスロピー研究会のメモ

(要約 by岡村,2008 12 12作成)

日 時:2008年12月6日(土)、午後1時から6時まで。
場 所:東京大学本郷キャンパス:経済学研究科棟12階第3共同研究室
内 容:
 第一報告は帆刈会員による「中国・香港における慈善の歴史」であった。中国における慈善研究史としては、明清時代から1949年の中国共産党政権までを対象として「善堂」に関する研究があり、主なものキリスト教の宣教師と日本人研究者による調査であった。以降は、1980年代の社会主義崩壊までは空白期。その後は、政府の救済事業史、社会史研究、宗教史の三様の研究があることが紹介された。

次に、帆刈氏の固有な関心として、植民地期の香港における慈善医院の紹介があり、「東華医院」と「保良局」が1870年代に創られ、ネットワーク型の慈善活動として展開されたことが紹介された。
最後に、同期における中国人慈善家として、何甘棠と周壽臣が紹介された。二人の活動は非常にユニークなもので、広東系の人々を中心としながらも、国際的な繋がりをもった、男性中心のネットワーク型の慈善活動であった。

第二報告は、中野・辻両会員による「ドイツにおけるフィランスロピー概念」の報告であった。ドイツの場合、フィランスロピーという用語はごく狭い意味でしか使われない。
19世紀で考えれば、社会事業は大きく、公的事業と民間慈善・博愛事業に分けられる。前者には国家と自治体が行うものがあり、後者は宗教系(カソリック、プロテスタント、ユダヤ系)と非宗教系(人道主義、博愛主義、市民的、社会改革的)に分けられる。それらの中で、博愛主義がフィランスロピッシュと表現されているのみであり、用語としてフィランスロピーはほとんど使用されない。

活動形態として、伝統的には基金であったが、19世紀には協会が典型的となった。特に、工業化、都市化の進んだ地域では、民間慈善・博愛事業は公的救貧を遙かに凌ぐ規模となり、活動内容も多岐にわたった。それらの目的は社会的な弊害(健康と生命、経済的・物質的、道徳的・精神的)の除去・改善で、自由な活動であった。活動の担い手は国家、自治体、教会、協会、国際組織、個人など多様であった。そのうち、協会活動を分類すれば、学術研究、実践活動(全国的・総合的なものと個別目的に特化したもの)があった。

また、市民社会の概念に関して、16世紀に発する故郷権が19世紀に市民権や被救済権の根拠に変化したこと、救助籍が19世紀中頃に成立したことは、市民社会の成員資格=救助資格(排除と包摂)との結びつきで、重要な意味を持つことが指摘された。民間慈善事業では、宗教系の組織は、容易に国境を越える活動をしており、ネットワーク型の典型といえよう。

以上のような実態から、中国、ドイツともにネットワーク型の組織が目立つ。ドイツ
の場合、英国と比べて、伝統的なチャリティが弱い分、多様な組織が一度に登場する様相を見せているようだ。