再び会ったときのthは、私の気のせいか、前回よりも少しは気楽に感じられた。
th「カウンセリングをまた一から勉強するのもいいなと思ってね。」
森「は?」
th「(クライエントが)30代ぐらい以上だといいのよね、(不要なものを)手放させるということで。昔(その人の中に)入ってきたものや、自分で作り出したものはもう、意味がなくなっているんだよね。でも若い人は、(たとえ異物でも)単に手放すというのではなくて、それと一緒に成長する、みたいな過程があるんだね。だから、よく聴いていく必要があってね。」

私は、言っていることが分かる、と答えながら、thの率直さを強く意識した。そして、そのように私が感じることには何か意味があるのだろうと思った。
ここのところ私が、授業の中で、恩師のようにはジェニュイネス(率直性)を教えられないという課題に直面していたことを、この人は知る由もない。
私は、こうして催眠を受けにきたり、thのような人に会うことは、共時性の急速な川の流れに身を投じることなのだな、と感じた。

共時性といえば、こういう側面もあった。
私が身体的不調に関するフォーカシングを研究することは、8月から決めていたが(注:フォーカシングは従来、心理的テーマに適用される)、10月11月と自分が実際に被験者をとってみると、身体的テーマへのフォーカシングは場合によって激しい自己否定の過程になることがあった。結果としてこちらがかなりリードする必要のあるセッションが、10のうち1、あった。
9月にthのセッションをうけたあとだったので、thの振舞い方を参考にした。


さて今回の催眠の目処をつけるためだろう、前回の催眠の後に感じたことを尋ねられた。
私はとりあえず、「空気の読み方を教える長老」は、やはり心当たりの人物がいる、ということを話した。
森「その人も殺し屋にしちゃうようで、認めたくありませんけど‥。風はめちゃくちゃ読める人なんです。」
th「風が読めるってどういうこと?」
森「遠くまで見通せて、人や世の中の動きが分かって、どっちにどう全体が動いたらいい、そのためにはここに少し働きかけたらいい、とか‥」
するとthはあたりまえのように言った。
th「その人にそれができるってことは、あなたもそれができるってことよ。」
私は想像したこともない。

森「また催眠を受けるのは、怖い気もするんですよね。数日置きに感じが変わっていくのはきついです」
th「そう言うけど、そうなるってことは、それが森川さんの本来のペースってことじゃないの?」

‥猛禽の辞書には、「人間個人の能力に限界はない」、と書いてあるらしい。

森「催眠の後2日は、気持ちよかったですよ。高揚感が自分の中に残っていて。ああ、こういう魔境のようなところに留まっていてはいけない、と思いながら‥。」
th「なぜ魔境というの。なぜそういうところに居てはいけないの」
猛禽は、ここに獲物を見つけたとでもいうように、切り込んできた。

th「どうもあなたの中にね、そういうのがあるよね。気管支ってのも空気に関係ありそうだし。空気を操ることについての罪悪感があって、それが邪魔をしているのかもしれないね。」
私が催眠3日後から胸の痛みに襲われるようになった理由も、そのストーリーで読める、とthは見通しをつけたようだった。

そうこうしているうちにも咳が出る。
「その咳、1時間、いや、早ければ10分で取れるよ。まず、それを取ってから、やろう」。thはそう言って、セラピールームに向かった。


***********
肺の感じから、入っていった。
th「その感じは、性別で言えば、男性ですか女性ですか」

中年の男性、中肉中背、在日のアジア人、というイメージが出てきた。
thは、それを、「憑依」つまり、他の人の念が入ってきて居座っているものととらえた。どれを「外部からの憑依」ととらえ、どれを「本人の前世の記憶」ととらえるのかは分からないが、thは何らかの要因によって見分けているらしい。
th「なぜあなたの中に入ってきたの」
森「言ってほしいことがある。言えば開放される。この人(森川)なら言いそうだから」

thは、その人の人生の場面に連れていってもらおう、と誘導した。

森「洞窟みたい‥湿っぽい‥。その人には耐えられるけど、私にはこの空気は耐えられないですね(咳)。並んで座っています。」
場所は日本で、戦前の炭鉱。
男性は、もうすぐ落盤事故があることを予知している。けど、言ってもどうにもならないから、言わない。ものごとには言える時期というものがある。
やがて事故の日が来て、男性は他の仲間(十数人?)と一緒に亡くなっていく。

th「その人は、森川さんを通して何を伝えてほしいんですか。」
森「こんなに穴掘っても大丈夫と思っている人間の傲慢さ‥。大丈夫なわけないのに‥」
th「その人の人生は、森川さんに何を伝えていますか。」
森「『予知に敏感であれ』ということです。」

thの誘導で、全員が光に癒されるイメージを体験する。

***********
終わって、thはコメントした。「そういうものが入り込んでくる要因がこちらにもあるということかもしれないね」。
咳は、軽くはなったが無くなっていない。
th「その咳、しつこいね。」
昼食を取り、午後のセッションということになった。




☆ 催眠療法体験記(3) 序

☆ 催眠療法体験記(3) 主訴

☆ 催眠療法体験記(3) #1

☆ 催眠療法体験記(3) #2−1

☆ 催眠療法体験記(3) #2−2

☆ 催眠療法体験記(3) その後

☆ 催眠療法体験記(3) #3

☆ 催眠療法体験記(3) #4−1

☆ 催眠療法体験記(3) #4−2

☆ 催眠療法体験記(3) 結



何でも体験記
催眠療法体験記(3)
#3
フォーカシング
気まぐれ日記
学生ラボ
自己紹介・研究
LINK
TOP
授業・試験
何でも体験記