(一社)日本機械学会 ロボティクス・メカトロニクス部門主催 九州地区競技会

フューチャードリーム!ロボメカ・デザインコンペ2019

■審査員総評


審査委員長 倉爪 亮(九州大学大学院システム情報科学研究院 教授(ロボメカ部門 部門長))
 ロボメカデザインコンペは,アイデア,コミュニケーション能力,造形力(デザイン力)が試される,ロボット競技会としてはユニークな大会であるが,「たねなしったい!」はこれらのすべてにおいて一歩先んじていた. Pear Catcherは,重力を動力源としたアイデアに加えて,ダンスでロボットを表現するユニークなプレゼンが秀逸であった. 七島藺ハーベスター「凜」のフィールド調査を基にした提案は説得力があり,モックアップも素晴らしかった. デザインのみならず,プレゼンにおいても様々な工夫が見られ,とても楽しく審査させていただきました.

<Teamねたい(九州産業大学):たねなしったい!>
 デザイン性は極めて高い. 応用分野も,これまであまり知られていないが重要な作業であり,着眼点が素晴らしい. 一方で,実用性からは,双腕である必要性など,若干弱い点もある. レプリカを配布するなど,プレゼンのインパクトも大であり,モックアップも完成度が高かった.

<Pear Catcher 制作委員会(福岡大学):Pear Catcher>
 初めての審査委員で,ダンスが最後に披露されたのには戸惑ったが,とても楽しい審査だった. 技術的には回生エネルギーの効率や,ハンドの剛性などが問題になる可能性がある. 一部は極めて詳細に解析され,他では大雑把な部分が残っており,得意分野を持ち寄った様子がよくわかる. モックアップの完成度がいま一つであることが残念だった.

<もんじゃ焼き(大分大学,九州大学,金沢大学):七島藺ハーベスター「凜」>
 実際の収穫現場でのフィールド調査に基づき,課題の抽出とアイデアのブラッシュアップを行っており,極めて説得力がある. デザインもシンプルかつ機能的である. 機構的には,刈り取り作業が実際に可能かとの疑問が残るが,これらは今後の課題として示されている.

<D&K(近畿大学):筍探(ジュンタン)>
 デザインは秀逸で愛着が湧く.一方,悪路走破性が求められる環境で,4足歩行ロボットが適しているかは疑問である. 匂いや色を用いたタケノコの発見や年齢判別など,技術的にはこれから開発すべき高度な内容が多く含まれている.

<TT フレンズ(久留米工業大学):サンシャイン>
 工学的な実現可能性を強く意識して提案されたものであり,直ぐにでも設計,製作可能なレベルである. 一方で電動ドライバーを持ち歩く手間やクラッチ機構の重量など,さらに検討すべき課題もある. 実用性を優先したものであり,デザインは再考の余地がある. プレゼンでは,ミカン収穫などの応用分野を先に説明し,その後に課題解決手段として本機構を提案していれば,より説得力があったと考えられる.

<「再エ根」(日本文理大学,熊本大学,九州工業大学):「ATTACHIMENT」>
 音を用いた腐葉土のマッピングは興味深いアイデアである. ホバリング音は騒音として捉えるのが普通であるが,それを別の用途である地上の状態推定に用いるのは,素晴らしい着眼点である. 一方で腐葉土のマッピングと草刈りとの関係性についての説明が不十分で,当日の質疑が若干かみ合わなかったことが残念であった.


審査委員 加藤 優(九州産業大学芸術学部 非常勤講師 プロダクトデザイン担当)
 今回の六つの発表は例年に比べてプレゼンテーションの技術(スライドの美しさ・見やすさ,説明の仕方など)が向上し,どの発表も提案の内容の理解に苦しむことが無く,昨年からの皆さんの頑張りとレベルの向上を感じることが出来ました. また提案モデルにもジオラマ仕立てにするなどの工夫も複数見られ,モデル自体の完成度の高さとともに,アイデアや提案内容を正しく知ってもらおうという努力が見られた点が,今年度はすごく良かったと感じました.

<Teamねたい(九州産業大学):たねなしったい!>
 最優秀賞,おめでとうございます. ジベレリン処理をする作業者の動作をそのままロボットで置き換えるというアイデアを,単純な造形ですが電子ペーパーによる表情変化の演出とともに,提案書にあるように愛らしいデザインに上手くまとめていると感じました. このような愛らしいロボットが果樹園で働いていれば,作業者の身体的負担軽減だけでなく心も癒してくれる存在になるでしょう. アームの関節の軸が一軸足りなかったのは愛嬌ですが,ボディを3Dプリンターで綺麗に作製し,内部機構も考えてロボットとしても動くようにしてあるモデルは大変完成度が高いと思いました. ただ,例えば複数のぶどうの房のジベレリン処理を同時に行うというような,より効率的な解決策を目指すアプローチについては最初から除外したのかなと,ひとつ疑問は残りました.

<Pear Catcher 制作委員会(福岡大学):Pear Catcher>
 優秀賞,おめでとうございます.プレゼンテーションのスライドが綺麗でした. 荒尾梨の重さを収穫機構の動力源の一部に利用するというのは面白いアイデアですね. 二つのアームだけで効率的にはどうかとも思いましたが交互にテンポ良く動くのでしょう. アームのたわみなど工学的な解析もされていましたし四つのクローラーも機動力が高そうです. ただソフトロボットハンドで収穫した後の集荷工程については機構的な考慮が十分ではない(アームをガイドとするとの説明ですが)と感じました. ロボットのベース部分がどこかの古墳形状というのも面白いのですが,それだけでは古墳の形をした銘菓と同じレベルです. ロボット全体の機能からの必然性を伴って導かれた形状に何らかのユニークさを付加するという順序で考えられた方が良いと思います.

<もんじゃ焼き(大分大学,九州大学,金沢大学):七島藺ハーベスター「凜」>
 提案趣旨説明書によると高校1年生の時の課題研究から続くテーマとの事で,本当に強い問題意識のもと考えられた提案だと感心しました. フィールドワークで現地現物を知り課題を明確化,その課題解決に向け量や寸法など必要条件を押さえた上で機構を考案する,という教科書通りのプロセスを実践した大変素晴らしい研究であり提案だと思います. 刈り取った七島藺の選別や後方への移送の機構などにはまだ技術的な課題も多いかとは思いますが実現の可能性も感じます. フィールドワーク時の動画などプレゼンテーションの分かりやすさやハーベスターのカラーリングにも配慮が行き届いており,僅差で佳作でしたが私の評価では最優秀でした.

<D&K(近畿大学):筍探(ジュンタン)>
 「合馬たけのこ」とは初めて聞く福岡の地域ブランドとの事で勉強になりました. 提案の「筍探」によって作業労力の軽減,作業効率の向上が図れるとの事ですが,現状の作業者の具体的な作業との対比説明が十分ではなかったのでどれほどの効果があるのか判断に悩みました. 四足歩行機構の採用は妥当に思えますが,クローラ(キャタピラー)機構に比べて難しそうです. その辺りの研究と説明がもっとされていたならばアイデアについての理解がより深まり良い評価を得られたのではないかと思います. デザイン(外形)は親しみがあり面白いのですが,今後はキャラクター的なデザインよりも工学的必然からのデザインアプローチを重視すると,実現への説得性も増すのではないかと思います.

<TT フレンズ(久留米工業大学):サンシャイン>
 農業地域に多い傾斜地での「効率的な作業を可能とし,安全面の向上を目的とした装置」の提案でした. 傾斜地でどうやって水平な作業面を確保するかという課題を,一般的なパンタグラフジャッキと外部動力として電動ドライバーを使用する比較的シンプルな装置によってうまく原理的に解決出来ていたと思います. ただ,「水平な作業面(足場)での安全性」についての審査員の先生からの質問に対して発表者からは滑り止めを追加するとの回答がありましたが,実際の作業中はとても足元に注意を払えないような状況であり,作業者の姿勢・動作範囲・作業中の視線などにも思いを巡らした上で,実効性のある解決策を考えておく必要性があったのではないでしょうか. 機械システム工学が専攻の二人のチームですので難しかったかもしれませんが,ユーザー(作業者)の視点に立ってさらに考える事でもう一段説得力の強い提案に近づくことが出来たのではないかと思います.

<「再エ根」(日本文理大学,熊本大学,九州工業大学):「ATTACHIMENT」>
 大雨による自然災害(表層崩壊)リスク低減と太陽光発電の維持管理コスト低減という,九州地方で近年身近で特に前者は切実な社会問題となっている課題を,本コンペの「地域産業の支援,地方創生」というテーマに沿いながら新たな視点から捉えて解決を図った良いテーマ設定だと思いました. 敢えて雑草を生やし,その根や腐葉土を活用するという発想・着眼点は斬新で,さらにドローンやロボットを使ってメインテナンスするという提案は実効性と実現性のあるアイデアではないかと思います. 雑草伐採機能の刃先形状の工夫や,多くの文献などを参考にして広い視野のもとに考えをまとめていることにも真面目な取組み姿勢が感じられ,大変良いと思いました.


審査委員 筬島 修三(一般社団法人九州経済連合会 企画調査部長)
 今年の各チームテーマは,こだわったニッチな設定だったと思います. 初めて聞く農産物であったり,植物ホルモンであったり. 毎年毎年,個人的に新たな発見があり,そういった意味でも審査員として「楽しい」コンペでした.
 来年度以降も,新しい視点で,おもしろいアイデアがでてくることを期待してます.

<Teamねたい(九州産業大学):たねなしったい!>
 種なしブドウの生産にはひと房ごとの「ジベレリン処理」が必要ということが初耳で,まず興味を惹かれました. デザインも可愛いし,実現性も高そうに感じました.最優秀に相応しい提案だったと思います.

<Pear Catcher 制作委員会(福岡大学):Pear Catcher>
 荒尾ジャンボ梨,荒尾市,嵐と持って行ったあたりはさすが福大と思いました. 地元農産品にフォーカスし,省力化で付加価値つけてブランドUPという流れも悪くありませんでした. いかんせん,モックアップの完成度が低すぎました. 惜しかったです.

<もんじゃ焼き(大分大学,九州大学,金沢大学):七島藺ハーベスター「凜」>
 「シチトウイ」農家を存続させる意義がもう少し入れ込めたらよかったと思います. ブランド力とか,イ草との優位性とか.必要性がもっとあれば説得力があったのかなと思います. あとは,ハーベスタの仕分けのところがもう少し丁寧に説明できれば,ぐっとリアル感がでて上位に行けたのかなと思います.

<D&K(近畿大学):筍探(ジュンタン)>
 全国的にも課題の竹林の管理,これをタケノコ掘で解決しようとする着眼点は面白かったです. デザインもかわいかったのですが,かわいすぎて本当に山林を動けるのか逆に心配になりました. もうひとひねりして,省人化を進めたうえで,ラクにタケノコが採れる形にするとなおよかったのかなと思います.

<TT フレンズ(久留米工業大学):サンシャイン>
 シンプルに解決策を提案する姿勢はよかったのですが,独創性・デザイン面でもう一段の工夫がいるのかなと思いました. その分実用性は高そうに感じましたが.

<「再エ根」(日本文理大学,熊本大学,九州工業大学):「ATTACHIMENT」>
 急斜面に設置された太陽光パネルの問題はこれらの老朽化とともに危険性をどうクリアしていくかは重要なこと. そこに目を付けた点はすばらしいと思います. ただ期待が高かった分,解決策がもう少し深堀されていればよかったのではないでしょうか.


審査委員 永里 壮一(メカトラックス株式会社 代表取締役)
 素晴らしい提案が多く,私自身も勉強になりました. 採点基準にはありませんでしたが,全般的に実際の機器のコストやそのコストを許容できる事業領域かどうかの視点があると,より説得力のある提案になったと思います. 「科学」と違って「工学」には,経済性の観点が不可欠です. コスト度外視であれば,現時点での技術でも解決できる社会課題は沢山ありますが,経済性の観点で実現できてません. 是非,「経済性」の視点も今後の勉強に活かしていただければと思います.

<Teamねたい(九州産業大学):たねなしったい!>
・1/20の模型を配るアイデアは直感的に理解でき,凄く良かった.
・ジベレリン処理の話しは具体的で勉強になり,面白かった
・プレゼン資料がよくできていて,プレゼン自体も良かった.
・種無しぶどうのグラフのところは,色づかい説明など欲しかった
 (口頭での補足がないと分かりづらかった).
・モックアップ,ジオラマも非常に完成度が高く,デザイン自体も素晴らしかった.

 最優秀賞おめでとうございます!デザインやプレゼンだけでなく,実際に稼働するところまで手掛けられ全ての部分で高評価でした. 特に少人数で,自分たちで手を動かしてカタチにしている点を個人的に高く評価してます,今後のご活躍を期待してます.

<Pear Catcher 制作委員会(福岡大学):Pear Catcher>
・大きく重い荒尾ナシ向けに特化している点が良かった.
・共振など設計シミュレートしてる点が良かった.
・SLAM,柔らかハンド,エネルギ回生など要素技術を検討してるのは良いが,個別にもう少し詳しい説明が欲しかった.
・重力を利用した収穫機構はシンプルで良かった.
・オリンピックで周知するというストーリであれば,その部分も説明が欲しかった
・プレゼン(ダンス)に比べてモックアップの完成度が低いのが惜しかった,本気で優勝狙うには工数の配分は要検討です.

<もんじゃ焼き(大分大学,九州大学,金沢大学):七島藺ハーベスター「凜」>
・シチトウイの現物も見れて,イメージしやすかった.
・シチトウイの生産量減の理由が手作業での重労働かは??だった.
・シチトウイの物性を調べてた点は良かった.
・長さでの分別のしくみをもう少し考えてほしかった.
・様々な大学,専攻の人が集まってチームを作っている点がよかった
・展示されてたモックアップ完成度が非常に高かった

 メカトラックス賞おめでとうございます,分別の仕組みがもう少し練られていれば尚良かったと思います. 今後この経験を活かして,より充実した学生生活をおくられてください.

<D&K(近畿大学):筍探(ジュンタン)>
・プレゼン内容,資料も分かりやすい,但し紙の配布資料は改善の余地あり.
・イノシシを例にニオイセンサ採用は良いアイデアと思いましたが,工学的な実現性をもう少し検証して欲しかった.
・足裏スパイクの機構が良くわからなかった.
・たけのこ栽培のスケジュール等調べて,業務改善に活かす発想は良かった.
・学科横断でチームをつくってる点が良かった.
・人と一緒に稼働することで,作業者の保護,安全などケアできる観点もアリかも.

<TT フレンズ(久留米工業大学):サンシャイン>
・充電式ドライバとフレキシブルシャフトの組み合わせは既製品の組み合わせで簡単に実現できて良かった.
・1方向(X方向)だけでなく,2方向(XY方向)の傾きも考慮してあると尚良かった.
 (地面の傾きは様々なので)
・設置個所の状況に応じた爪の種類を考えている点が良かった.
・「ロボメカデザイン」コンペなので,ロボット的な制御・機構,デザイン性など改善されるとより良かった.

<「再エ根」(日本文理大学,熊本大学,九州工業大学):「ATTACHIMENT」>
・電力需給の64%が再エネって表現が良く分からなかった.
・特定の雑草で強い土壌にする観点は面白い.
・音の反射に関して,実際に実験してる点が良かった.
・ドローンのフレームを開発した経緯・意図の詳しい説明が欲しかった.
・雑草でどこまで保水できるか,説明が欲しかった.


審査委員 田名部 徹朗(株式会社 三松 代表取締役 社長)
 毎回のことですが九州ではまだまだ私自身も知らない事象があることを教えていただき感謝しております. 今回は,九州の地方創生にもつながるテーマということで農業にスポットライトをあてたものが多かったのですが,これは九州だけではなく日本全体の問題でもあると思います. これに対する学生の新鮮な目で考察された様々な提言は,今後の日本農業活性化の大いなるヒントでもあったと思っています. 逆に当社のビジネスにも適用させていただきたいくらいです. 今回のコンペを通して得られた貴重な経験をぜひ今後の活動に生かしていただくことを期待するとともに,どんなテーマに来年三松賞を授与できるか楽しみにしています.

<Teamねたい(九州産業大学):たねなしったい!>
 最近のぶどう栽培の主流が種なしに移行していることと,その栽培の中で重要な作業がジベレリンにつける行為であり,しかも苦渋作業であるという事実をつきとめロボット化の可能性が高いテーマとして選定したところが秀逸でした. テーマ選定の確かさが,その後の開発ポイントの絞り込みにつながり,より実現性の高い提言につながっていると感心いたしました.

<Pear Catcher 制作委員会(福岡大学):Pear Catcher>
 三松賞受賞おめでとうございます. 当社で現在展開している農業収穫ロボットと近いテーマであったのが選定の理由です. 炭鉱の町荒尾のブランド梨を産炭地振興の起爆剤にしようという心意気には大いに感動しました. それを,ロボットと画像解析,制御技術で解決させようとする提言は良かったのですが,オリンピックでのインバウンド需要取り込みをするためのビジネスプランまでは詰め切れていなかったことがおしくも優勝を逃された原因と思います. 事業性をより吟味し計画を検討していけば産炭地の皆さんの活性化につながる非常に実現性の高いプランとなると思います.

<もんじゃ焼き(大分大学,九州大学,金沢大学):七島藺ハーベスター「凜」>
 課題ニーズを現地現物現実を通して的確に捉え分析し,非常にいいテーマ選定をされたと思います. ただし,農業活性化のプランとしては,もっと具体的なビジネスプランを考察しなければならない点が物足りなかったです. ぜひ,事業化を想定したプランを練ることで皆さんの夢実現に向かってがんばってください.

<D&K(近畿大学):筍探(ジュンタン)>
 ブランド化も進んでおり日本一の生産量を誇る福岡県のたけのこ生産が危機にひんしていることは全く知りませんでした. 特に,竹林の荒廃が農家の高齢化とあいまって加速しており,早晩国内産は食べれなくなってしまうという事実には筍好きの私も大変困惑しました. ここまでのテーマ選定は大いに期待できるものでしたが,ロボメカデザインの視点では機能性・デザイン性,そして技術的にカバーできていない点も多く,これらを更に煮詰めてぜひ実現に向けてがんばっていただきたいと思います.

<TT フレンズ(久留米工業大学):サンシャイン>
 全国トップ5に入る農業都市「久留米」と「八女」の主要農地が危険な傾斜作業が多い中山間地であるという事実を考察できたことは,まさに地の利を活かしたテーマ選定でよかったと思います. ただし,解決策としての電動ステップ開発は機能性・デザイン性,そして安全性の点でまだまだ検討の余地があったのが残念でした.