◆2018年度 審査員総評
■審査委員長 村上 弘記(株式会社IHI技術開発本部 理事 技監(ロボメカ部門 部門長))
■審査委員 伊藤 久徳(福岡市科学館 館長)
■審査委員 加藤 優(九州産業大学芸術学部 非常勤講師)
■審査委員 筬島 修三((一社)九州経済連合会 企画調査部長)
■審査委員 永里 壮一(メカトラックス株式会社 代表取締役)
■審査委員 田名部 徹朗(株式会社 三松 代表取締役 社長)
■審査委員 加藤 優(九州産業大学芸術学部 非常勤講師)
今回、昨年に引続き審査委員として参画させていただきました。 「地域産業の支援、地方創生」というテーマは昨年と同じですが、各学校それぞれに特色のある課題・テーマの取り上げ方で、 昨年と異なるどの提案も興味深く聞かせていただきました。プレゼンテーションにもそれぞれの学校や学生の特色が現れて楽しかったのですが、 残念だったのは何より相手(聴衆)に内容を理解してもらうことが最重要であるのに、 その達成が十分ではなかったと思われる発表が見られたことで大変に勿体無いと思います。 自分達がこれだけの成果を挙げたんだと正確に相手に伝えるという観点での努力(自分達のプレゼンテーションを初めて聞く人の立場で客観的に捉える事、練習等)も 今後は必要かと思います。デザインを教える立場からすると今回、デザイン系の学科・学生の参加が昨年よりも少なかったのも残念でした。 これは提案におけるデザイン・芸術面の評価に関わることだけではなく、皆さんの課題の問題解決においてはお互いに異なる分野を専門とする学生による議論の方が、 専門を同じにする学生同士の議論よりも、もっと柔軟で幅広い発想になると思うからです。みなさん個人個人には素晴らしい発想の芽がありますが、 それらは自分と異なる意見や発想とぶつかり合うことでさらに斬新でより良い発想へ発展し、提案へと具現化出来るのです。 デザイン系の学科がない大学も多いかと思いますが異なる学科とのコラボでも刺激はあると思います。 是非来年は自分達の発想に刺激を与えるような新しい取り組みで、自分達の殻を打ち破るよう挑戦することを期待しています。
<ウーニー(北九州市立大学):自動ウニ収穫システムUNI>
プレゼンテーションのスライドが色合いも含めて美しく、モデルを使った説明とともに理解しやすくまとめられており大変優れていると感じました。 モデルを近くで見ると工作感ありありで苦労の跡が見えましたが、リアルなモデルを作ることによって新たに気づかされた事や、 それによるフィードバックによりアイデア・デザインともにレベルアップがあったのではないでしょうか。 主に機能面から考えられたデザインだと思いますがスタイリング的にも洗練された感があって良かったと思います。 ウニに限らず海底に沈んでいる小さなゴミの回収などの発展性も考えられる提案だと感じました。
<オイスター☆ITOSHIMA(福岡大学):Oyster Master>
共振を利用するというアイデアは素晴らしく、どこから出てきたのかそれに至るプロセスにも興味がありますが、 アイデアを理論で解析し解決策を見つけ、実験によって実証出来たというプロセスは完結しており実際の実験映像も大変インパクトがありました。 ただしデザインは牡蠣のイメージというよりサンマを焼くのに適しているようにも見えます。牡蠣小屋に似合うイメージはどうか、 お客さんがさらに美味しいと感じるデザイン、カラーはどうか、或いはお店の人にとっては掃除しやすい、運びやすいなども考えられたデザインか。 そこまで考えた提案であれば最優秀賞であったと思います。
<D&K(近畿大学):Dr あまおう>
4台のカメラによる360度チェック、一株あたりの病気確認所要時間5秒、ロボットの寸法が畝の幅・高さに対応して幅200mm/高さ240mm可変する、 というようにきっちりと量的・数値的な観点で正確に検討しているのは(研究として当然ですが)大変良いと思いました。 デザインはまだ「ただの箱」のレベルなので、農家の皆さんがこのロボットとともに病気確認作業の負担がなくなって楽しく作業しているというイメージ、 或いは実際に使用している時のイメージ(あっ、ハンドルが必要だな等)を膨らませると、さらに相応しいデザインのアイデアが出たのではないかと思います。
<緑(福岡大学):曲げもん>
博多曲げ物は認知度が低い中、生産者・後継者不足で生産が間に合っていない現状があるとのことで、 伝統工芸品が直面する課題に取り組んだ良いテーマだと思いました。板(二次元である面)を曲げる加工なのでキャタピラーのようなモジュラーロボットの提案でしたが、 これが実際の職人の作業工程や作業環境の中での使われ方を想定すると、例えばどのように板材を固定するのかなどの新たな課題が明らかになってくると思います。 そのような観点でアイデアが深堀りされていればもっと良い提案になったと思います。
<NiAS CLEANER(長崎総合科学大学):海岸清掃マシーン「ビーチクリーナー・RB」>
マイクロプラスチックスによる海洋汚染が景観だけでなく人間の健康や生態系にまで影響を及ぼす懸念が世界的に注目されている中で、 大変良いテーマに取り組まれたと思います。プレゼンテーションではゴミの種類・大きさ、砂との分別について、 また作業環境についても説明があったので解決すべき課題の認識は十分だったのですが、 アイデアはデザインも含めて既存の製品の流用に止まっていると感じられました。 流用でも機能部品の配置などを見直すことにより新規性ある製品の提案は可能ですし回収した後のリサイクルにも触れていれば社会循環システム的な提案ともなり、 さらに良かったと思います。
<comyouth's(日本文理大学,長崎大学,熊本大学,九州工業大学):観光・福祉産業支援「ペンギント」>
提案趣旨説明書によると観光客が「また来たい」という気持ちになる事と、また「来て欲しい」と望む少子高齢化が進展している地域住民の両者を、 双方の健康という観点でも結びつける事で解決出来ないかとの大きな枠組みの提案のようですね。プレゼンテーションではその辺りが理解し難く、 ドローンなどの説明も重要ですが、むしろ「ペンギント」というデザインされたデバイスを、そのモデルを使用して実際のシーンを再現しながら プレゼンテーションを行った方がずっと解りやすかったのではないかと思いました。 また一人の発表者に負担がかかっているように見受けられたのも再考の余地があるのではないでしょうか。 複数の大学のコラボチームで難しいエリアシステム的な提案にチャレンジしているその意欲は大変素晴らしく次回に大いに期待しています。
■審査委員 筬島 修三((一社)九州経済連合会 企画調査部部長)
・「地域産業の支援、地方創生」というテーマで、6チームのプレゼンを聞かせてもらいました。 今回も、様々な課題を取り上げ、よく考えて、それを提案してもらい、本当に毎回毎回感心しています。会場もすばらしいですし、 このような機会を経験できることは学生の皆さんにとって、将来必ず糧となるものです。来年以降もすばらしい提案が数多く出ることを期待しています。
・今回のコンペについては、当日の講評でもあったかと思いますが、上位2つは大接戦でした。私も5回目ですが、 これまでで一番の僅差でした。全体的なレベルも上がってきてます。「ロボメカデザインコンペ」ですので、 「ロボメカ」と「デザイン」の二兎をぜひ追っかけてください。
<ウーニー(北九州市立大学):自動ウニ収穫システムUNI>
高級品というイメージをもっていた「ウニ」が増えすぎると海の環境によくないということが初耳でした。 あまおうと同じで、ブランド力もあり価格競争力もある農水産物が高齢化・後継者不足に苦しんでいるのが不思議です。 ソリューションの方法は重労働の軽減であまおうと同じですが、モックアップの精度・デザイン力が光りました。
<オイスター☆ITOSHIMA(福岡大学):Oyster Master>
一言でいうと衝撃的でした。いろいろプレゼンありましたが、この共振・非共振で生ガキの殻が空くという実証を見せられた、これがダントツでした。 ただ、「デザイン」及び「パフォーマンス」にもうひとひねりあれば・・という案件でした。惜しかった。
<D&K(近畿大学):Dr あまおう>
福岡県の代表的な農産物である「あまおう」が作付け面積、農家がともに減少してるという事実に驚き、 ここで提案されているようなアイデアを早く打たないと取り返しがつかなくなると気づかされました。 農家の重労働の軽減化がこのアイデアの根本で、その中の病気確認作業を軽減するものですが、 検査だけでなく収穫までもっていけるアイデアであればもっと高評価だったと思います。
<緑(福岡大学):曲げもん>
伝統工芸品である博多曲げ物の工程を見える化し、自動化することにより後継者不足を解決するアイデアで、 おもしろい着眼点でした。こういった工芸品を自動化してある種均一化することが、 逆にブランドを毀損することにならないかという余計な心配をしてしまいました。 ただパフォーマンスも含めいいプレゼンでした。前出のチームといい、来年度は悲願成就に期待ができると思います。
<NiAS CLEANER(長崎総合科学大学):海岸清掃マシーン「ビーチクリーナー・RB」>
海洋漂着ゴミは島国である我が国において非常に大きな問題となってます。特に九州は中国・韓国に近く海流の関係でゴミが漂着しやすい地域です。 この問題を解消するという着眼点はいいアイデアでしたが、海水のついたゴミをそのまま処理できるのかとか実現性の面で少し低い評価となりました。
<comyouth's(日本文理大学,長崎大学,熊本大学,九州工業大学):観光・福祉産業支援「ペンギント」>
用途が幅広すぎて、やりたいことが少しぼやけてしまったかなという印象です。どちらかひとつに用途を絞った方がわかりやすかったかなと思います。 しかしながら複数の大学でチームをつくって課題解決に取り組んだことはすごく良かったし、来年以降もこのような連合チームが出てくることを期待します。
■審査委員 永里 壮一(メカトラックス株式会社 代表取締役)
<ウーニー(北九州市立大学):自動ウニ収穫システムUNI>
・うにが増えすぎる弊害の説明は分かりやすい
・疑問点をリストアップして説明する方法は分かりやすい
・ウニ以外への応用は良い
・海女さんが1日60個というのを調べてあるのは良い
・ターゲットを法人想定にしていて具体的
・欲を言えば60〜80万の費用感の根拠が欲しかった
最優秀賞おめでとうございます!
<オイスター☆ITOSHIMA(福岡大学):Oyster Master>
・生牡蠣は普通に食べられてると思いました
・生牡蠣の殻剥きの自動化はニーズありそう
・牡蠣の殻が開く原理はかなり面白いし、実際の動画もあり素晴らしかった
・最前列左側のダンスがキレキレでやりきってて素晴らしい!!
メカトラックス賞おめでとうございます。 技術的にはイチバンの内容で審査員の評価も素晴らしかったのですが、デザインとロボット化の部分で最優秀を逃しました。 事業化なども十分可能なアイデアと思います、今後の展開に期待してます!
<D&K(近畿大学):Dr あまおう>
・プレゼン中の寸劇やデモが良かった
・外観には寸法などが入っているほうが分かりやすい
・カメラの機構は良いアイデア、説明とデモも分かりやすい
・キャッチャーの機構は良いアイデア
・タブレットでの表示例を提示され、分かりやすい
・コスト(100万円)の根拠があると尚良い
・カメラ4つ使用する理由の説明も良い
・飛行型ドローンとかでやるととても面白いかも
<緑(福岡大学):曲げもん>
・テーマ設定が適切
・職人さんにインタービューしているのが良い
・対象を絞り込む(曲げ作業だけ)のが良い
・人が出来ない曲げもできるのは良い(新分野進出)
・最後の演出が素晴らしい!!
余談ですが、人の手で作らない工芸は何処に価値を見出すべきか、他の素材で機械的に成型した、機能性だけで考えればより優れた容器はあると思います。 単純に伝統工芸を機械化することが、伝統工芸保存の為の優れたアプローチなのか考えさせられるプランでした。
<NiAS CLEANER(長崎総合科学大学):海岸清掃マシーン「ビーチクリーナー・RB」>
・企画の背景など丁寧にまとめられており、分かりやすい
・海岸への搬入方法がわかりづらい(石で堤防を越える?)
・コスト面の説明(現状どれくらい処理費用がかかってるかなど)があればより良かったかも
・機構のデモが欲しかった
<comyouth's(日本文理大学,長崎大学,熊本大学,九州工業大学):観光・福祉産業支援「ペンギント」>
・複数大学、学年で横断的にチームを作っているのは本コンペの理念に沿ってて良い
・バイタルサインどう取得するのかが分かりづらい
・観光客のバイタルサインを取って、おもてなし強化の流れがわかりづらかった
・助けたくなる自律型ペンギント(助けたくなるロボット)のアイデアは斬新で面白い
デモが不調だったので、休憩時間に審査員に個別アピールされてましたが、そういった熱意は素晴らしいと感じました。 ルールを守ることも大事ですが、ルールを破る勇気は今後も大事にされてください。
■審査委員 田名部 徹朗(株式会社 三松 代表取締役 社長)
毎回ですが私の知らない九州各地の課題をあげていただき勉強させていただいています。 発表内容は、各チームとも優劣はありますが、メカ開発にあたっての要素試験や分析、検証を行っており、 限られた時間の中でチーム一丸となって頑張っておられる姿が垣間見られ感動いたしました。 このコンペを通じて経験し体験できたことは、今後の社会に出てもきっと役に立てるレベルのことを皆さん成し遂げられたと思います。 また来年どこのチームに三松賞を授与できるか楽しみにしています。
<ウーニー(北九州市立大学):自動ウニ収穫システムUNI>
最優秀賞受賞おめでとうございます。テーマ選定、解決策、メカデザイン、技術的課題。かなりクォリティの高い提案をしていただいたと思います。 ここまで詰めていただいているゆえに、開発予算、予想売上まで踏み込んだビジネスプランとして仕上げていただくことを期待します。
<オイスター☆ITOSHIMA(福岡大学):Oyster Master>
優秀賞受賞おめでとうございます。目からウロコの提案でした。 当社もぜひ製品化の協力をしたいと思っている提案です。分析・検証もしっかりできており、今回一番実用化が近いチームであると思いました。 しかし、機能を魅力的なものにするという意味での機器のデザイン性の低さが、せっかくの良いアイデアだっただけに惜しまれます。
<D&K(近畿大学):Dr あまおう>
インバウンドの方々にも大人気のあまおう。 その収穫アップと高齢化するいちご農家の負担軽減を調査・分析の上「早期の病気発見」をテーマに絞ったのは良い着眼と思いました。 農家の収入に対して販売価格100万円を実現していくハードルはまだまだ高いですがぜひ実現していただきたい提案でした。
<緑(福岡大学):曲げもん>
三松賞受賞おめでとうございます。材質は違いますが、 金属を曲げて製品づくりをしている当社として非常に興味をひく発表でしたので三松賞として表彰させていただきました。 ただし、要素試験段階から、その先までの製品化への取組のための深耕がまだまだです。ぜひ製品化できるよう頑張りましょう。
<NiAS CLEANER(長崎総合科学大学):海岸清掃マシーン「ビーチクリーナー・RB」>
国内有数の海岸線を持つ長崎県ならではの課題設定はいい着眼と思いました。 ゴミ収集車の機構等、既存技術を組み合わせた開発は本機種の実現性を高くしていると思いますが、 開発コストと現状の清掃費用まで踏み込んだ経済性も考慮できれば、より良い提案につながったと思います。
<comyouth's(日本文理大学,長崎大学,熊本大学,九州工業大学):観光・福祉産業支援「ペンギント」>
今回唯一の大学間、地域間連携のチームでしたのでどんな提案をしていただけるか期待していましたが、 寄り合い所帯が逆に裏目にでて各自の得意なことを列挙した総花的でまとまりに欠ける発表となってしまったのは残念でした。 ただ、異質なことを融合するチャレンジな取り組みですのでぜひ来年も頑張ってください。楽しみにしています。