鶴田研究室の考え方

研究について ~山は頂上から降りるべし~

 当時(1993年頃)の私は、5年10年後の最先端技術の研究開発を推し進める研究所に勤務していました。そこから製品開発を行う開発部へ転勤した際、当然のことのように「山を知るには下から登るべきだ」と思っていました。つまり、製品開発を行うためにも、基礎からじっくりと進めることが重要だと考えていました。もちろん、これは正しい考え方だと今でも思います。が、上から降りるという考え方があることを先輩社員に教えて頂きました。完成された製品を知り、その技術の一部を変更することでもっと素晴らしい技術を身につけることができるという意味だと思います。山を知ることにたとえてみます。下から登る場合、最短コースで登れない、迷ってしまう、途中であきらめてしまう、違う山に登ってしまう、という危険性があります。逆に、上から降りる場合、眺めが良いため、どのコースが最短なのかわかる、いろいろなコースも見える、必ず麓まで到着できる、というように非常に効率が良いというわけです。企業における製品開発を考えると、最短時間で、間違いのない製品をつくらなければなりません。「山は頂上から降りるべき」でしょう。
 さて、卒業研究においてはどうでしょうか?とかく、「大学の研究は基礎からじっくり」と考えがちです。しかし、基礎からじっくり進めていると学生は卒業してしまいます。果たして、学生に「研究の意義、楽しさ、技術」を教えることができるのでしょうか?私は、卒業研究においても、山は頂上から降りるという考え方で指導しています。具体的には、最初に世の中の最先端技術を教えます。その技術の素晴らしさを知ってもらうのです。学生はほとんど理解できないでしょうが、凄いという実感をもつことはできます。しかし、最先端技術といえども完璧ではありません。美しい画像を映し出す液晶テレビで動きの速いスポーツを見ると残像があって不自然な映像になることからもわかると思います。もっと素晴らしいものに改良したい、そのような感覚を身につけて欲しいと思います。では、基礎はどうすれば学べるのか、不安になる学生も多いと思います。「必要に応じて基礎は自分で学べ」が理想だと思います。基礎知識をわかりやすく解説している本はたくさんあります。大学専門課程でも学べます。インターネット検索してもかなりの知識を得ることができます。企業に就職したら教えてくれるという淡い期待は捨てたほうが良いでしょう。自分で学ぶしかないのです。この自分で学ぶ方法を試行錯誤しながら学生時代に身につけることが重要なのです。私の研究室では、3年次生に機械学会九州学生会で学会発表させています。3年次の9月から研究室に配属されますので、半年足らずで発表させるわけです。もちろん、ネタを与え、発表原稿(予稿)も一字一句指導します。当然、内容は理解できていません。学生にとっては、急にヘリコプターなどで山頂付近に連れて行かれたような感じでしょうか。怖いと思います。しかし、一瞬でも「いい眺めだ」と思ってほしいと思います。我々大学教員は専門分野のプロフェッショナルプレーヤーです。それぞれの山を持っています。もっと高い山に登りたい(山を高くしたい)、別の山にも登ってみたい、すそ野まで征服したい、と思うことしばしばです。学生と一緒に、もっともっと山を知りたいと思います。
 最後に繰り返しになりますが、「山を知るには、頂上から降りる」ことをお勧めします。

 

 教育について

 1.目標設定
 卒業研究を進めるにあたり,目標設定が必要です.さて,この目標とは何でしょうか?大きく分けると以下のようだと思います.
 ・研究の目標
 ・人物の目標
研究の目標は大きな研究テーマに従って具体的な小さな目標を立てて日々努力することです.日々努力を続けるには,目標を宣言し,できることから始めることが肝要です.最初に,研究テーマの最終目標は何で,その中の何を自分が担当するか,何が問題で,その問題解決のために何をするのか,常に明確にしておきましょう.次に,できることを始めるには何ができるかを具体的に知ることが必要です.できることがわかればできないことを知ることができます.何ができないかがわかればどうすればできるようになるのか考えるようになります.研究(勉強)が進まなくなった時,そこで止まるのではなく,できることから始めましょう.物事の解法は無数にありますし,物事は多くの事象の重ねあわせで成り立っています.意外なことから解決策が出てくるかもしれません.また,できることしか継続することはできませんし,継続は大きな力を生みます.さらに,できることから始めることにより,常に気分良く研究することができます.不思議なことに,気分の良い人から良い結果が生まれることが多いのです.
 人物の目標を立てましょう.具体的な個人がいれば良いのですが,いない場合は,イメージでも構いません.挨拶,研究姿勢,協調性,整理整頓など,人間力を高めましょう.個人の力は微々たるものです.力が付けば付くほど無力を感じるようになります.研究に行き詰った時,目標とする人物だったらどうするか?考えてみたらどうでしょうか。不思議と解決策が見つかるものです.解決策まで見つからないとしても,何もしない状態からは脱却できるはずです.人間の能力の差はほとんどありません.中学時代に自分より成績の悪かった友人が自分より良い大学に入った例は身近にあるでしょう.自分の可能性を信じて,「拠り所にするにたる自分」を確立して下さい.

2.態度教育
 大学生にもなって何をいまさら態度教育か,と反発する人もいるでしょう.企業社長が一番悩んでいることは,新入社員にやる気,意欲がなく,自立心に欠けていることと言われています.イチロー,松井秀樹など,超一流といわれる人は態度もすばらしいと思いませんか?阪神を強くした星野前監督,サッカーのトルシエ前監督も態度教育から始めています.紳士・淑女になれ,ということです.人に対する感謝,謙虚な心を持つことで,人の話を良く聞くようになります.つまり情報が多く入ってくるのです.では,具体的にどうすれば良いのでしょうか?いわゆる“真面目”であることだと思います.真面目とは何でしょうか?真面目を定義することは簡単なようで難しいのです.そこで,真面目の反対を考えてみます.ミーイズムと呼ばれる,自分だけ良ければ良い,皆がしていることだから良い,という考え方です.この考え方には,ばれない,という心理が働いています.自分は見られているという意識を持つようにして下さい.自分の利益だけでなく他人の利益,人間関係の作り方,深め方,社会における自分の位置づけを常に意識するよう心がけてください.きっと,「一目置かれる人間」になると思います.

3.日本語教育
 九産大に着任して約6年.これまでに院生3名,学部生26名の指導をしました.残念なことに,ほとんどの学生は正しい日本語を書けないばかりか,論理的に話すこともできません.これは頭の中が整理できていないことにも起因しますが,文章を書く,話す訓練を受けていないことが大きな原因です.従って,週間報告を個人で実施します.目的、実施内容、結果、問題点、予定などを列記して、毎週月曜の午前中までにメールで報告して下さい.月曜の13:00(仮)から進捗報告会を実施します.