VOICEライブ体験記(2)−小倉WOW−
催眠療法体験記
 22003年5月28日(水)。まさか福岡でVOICEのライブがあるなんて。西小倉駅を降りて目の前、ライブハウスWOWにたどりつく。

 手渡されたチケットを見ると「VOICE、ゲスト国士無双」とある。へ?。で、壁のチラシを見ると、今日はVOICEと国士無双の2バンドってことになっている。
 知らなかったぞ。

 19:30すぎ、国士無双のライブがはじまる。センターはエレキギター弾くオッちゃん。サックス、ベース、ドラム。曲によっては、ヴォーカルの若い女性 2人が入る。ブルースなんかやる。泥臭くて面白い。地元のベテランはこんなふうに楽しくやってるんだな。しかし、連れて来ていた夫が即刻外に出て行き、 帰ってこない。1時間半後、西小倉駅で猫の写真を撮って戻ってくる。聞くと「だって、あのギターの人、体調悪いやん。音聞いたら一発で分かるやん」。確か にギターのオッちゃんは、「今日、点滴打って出てる」って言ってて、最後は若い人たちに冗談ぽく引きずられるようにして舞台を降りたのだった。なんぼなん でも、音でそこまで分かるものだろうか。西小倉駅に居たなんて言いながら、ほんとはそこのドアに貼り付いてトークを聴いてたのかもしれない。しかしあなが ち否定できないことに、夫は、ブラスバンドなんかを聴くと、たとえそれが全く知らない高校等の演奏であっても、その中の誰と誰が付き合っているかが分かる というのだ(夫はいわゆるブラスおたくである)。「確認は取れんけどね。でも、ホルンの2番とクラリネットのトップがぴたーっと合わせとったら、そうや ろ」。まあ、50人居てもお互い同士は好きな人の音を聴き分けて合わせてるだろうから、聴き手がそれに勘付くということはあながち不可能ではないのかもし れない。ただ、そんなことが分かって何の意味があるのか(笑)。何の意味もない特技だが、なんかその特技は楽しい。

 国士無双のあとは、「ニシナミユキ」さんという人。VOICEが前座として連れてきた岡山の人だ。自分が作った歌を、自分のギター一本で歌う。身体も声 も黒光りしている。曲も濃い。一人の演奏で「濃い」と感じさせるのがすごい。皆も盛り上がっている。ただし、国士無双の長いライブに引き続いて聴くとなる と、耳が限界にきていたので、たいへん申し訳ないが、休憩を取りに外に出た。




 ニシナミユキさんのライブが終了し、まもなくVOICEが出てくるという合図の曲が流れる。見渡すと、極端にお客が少ない。13人しか居ない。 VOICEの史上最少ではないだろうか。二人はどう感じるだろう。東京でファンにとりまかれていた二人を思い出す。私たちの他には、サラリーマン風の人達 が、仲間内らしく固まって座っている。会社の人同士か、お店の常連さんかもしれない。あとはVOICEのマネージャーの男性が一番前の真正面に座って、国 士無双からずっと聴いている。さっきまでけっこう居たお客さんたちは、もう2時間も続いたライブに堪能して帰ったのだろうか。あるいは休憩を取りに出たの だろうか。いずれにしても、VOICEの時に休憩を取る人はVOICE目当てではないってことだ。今ここに座ってる人たちにしても、VOICEのアルバム を聴いたことのある人が私以外にいるのか疑問だ。どのライブにも熱心なVOICEファンたちが遠征して来ると話に聞いていたのだが、この日はたまたま誰も 来ていなかった。
 (その後ライブ中に一人また一人と入ってきて、終了時には3、4倍のお客さんがいた。しかしライブ開始頃はこんな状態だったので、思いっきり気を揉んでしまった私だった。)





 やがてステージに出てきた二人は、無駄のない動きで中央に進み、椅子に座った。スターというよりも、職人の雰囲気がした。一曲目「せせらぎのない河」、 都会の人波の中で、本物の河を思う歌だ。個人的にはCDでは何とも思わなかった曲だが、CDとぜんぜん感じが違う。二人が表現する河はどうやら、厳しいほ ど冷たく、激しいもののようだ。水しぶきが飛び散るかのようなハーモニー。相変わらずすごい迫力だ。客が多いとか少ないとかそんなことは意にも介していな い。聴く人が一人でもいる限り、こうして全力で歌うのだろう。むしろ、初めての土地で、おそらく初めてVOICEを聴く人たちを前にして、最大に気合が 入っているように見える。

 二人の職人はすぐに二曲目を始める。アコースティックギターのハードな低音が響く。「Prayer」だ。無機質な街の中で育つ子どもたち。子どもにろく な環境を作ってやっていないことへの危機感が表現されていく。CDでは印象に残らなかった曲なのに、生で聴くとたいへんなスケールだ。二人がどうしても人 に見せたいと思う、「地球の本当に美しい景色」が、見えてくるような気さえする。そう、私にも人に見せたい景色がある。どんな人でも、もう何年も空を見て いないような人でさえ、目を閉じて自分の内側を降りていけば、心の中に感じることができる。その中で人は、自分自身が、この世界と全く同じ広がりを持つこ とを知るのだ。
 しかし私は、それを見てもらうための努力をしてきただろうか。腕を磨き、機会を買ってでもやってきたか。本当に見てもらいたいものがあるならば、一人でも多くの人にと願って、やって来なければならなかったのではないか。
 目の前の二人が、初めての場所にこそ足を運び、そして、伝えてしまっているように。





 そんなわけで二曲目を聴いた段階で、えらいインパクトを受けて、もうここで帰ってもいい、というか、帰って自分のやるべきことをやったほうがいいんじゃないか、と考えた私だった。
 ステージ上ではヒデさんがしゃべり始めている。
ヒデさん「さっき、すぐそこのリバーウォークに行ってね。このシャツ買ってきたのよ。いや、ほんとだって。バナナが食べたくてね」
客「バナナなら、めかりに行かな、めかり(地名)」客が打ち解けている。
ヒ「小倉って、高倉健だよね」
客「そうそう。それと、明石屋さんまのものまねしちょる人」
ヒ「原口あきまさ、ね」
複式学級の生徒が金八先生に教わっているみたいだ。ヒデさんは自分でそういう雰囲気にしておきながら、「なんだか家でやってるみたいですね」と茶化す。「いいんですよ。今日は、『選ばれたお客さん』のためのライブですからね」。

さっきまで知らない人達だったのに、こんなふうに引き入れてしまうんだな‥。私はまたしても、いろんなことを尻込みしてきた自分を思う。






 三曲目「きっと ずっと きみと」が始まる。パーカッションのケンジさんが入り、リズムが心地よい。優しいメロディー。ただ、これもCDではあまり印象 に残らなかった曲だ。気が散り易い私はバラードには集中できない。その上二曲目でヤラれているから、今後の自分の身の振り方など、いろいろと考えごとをし てしまう。するとふいに、自分の身に異変を感じる。胸が熱い。明らかに熱い。驚いて顔を上げると、「いつかきっとかなえてみせるよ」と、歌が語りかけてい る。大事な人と二人、支え合える暖かさ。ドアの外のそれなりに厳しい現実。「でも大丈夫だよ」と思える強さ。層になった空気の温度差がそのまんま来る。こ んな複雑な歌だったのか。すごい。不可思議な感動に襲われる。だいたい、聴く気がなくてほとんど考え事してた人間が、知らぬ間に感動してるなんてことがあ るだろうか。
 一般的に言ってライブの音楽というのは、音や歌詞というチャンネルとは別に何か、気とか空気とかのチャンネルでもあるのだろうか。そうでも言わなけれ ば、CDよりもライブで伝わってくるものがはるかに多いという現象を説明できない。この人達が何の力を使っているかは分からないが、知らない人を引き付け ることに照準を当てた演奏だ。こういう音楽を聴くときには、身構えずに、椅子の背もたれに身を委ねて素直に待っていれば、向こうからまっすぐ、入り込んで きてくれるのかもしれない。





 国士無双からサックスとベースの若い人がそっとステージに上がり、四曲目の「STAY」が始まる。これも初めて生で聴く。マイナーコードのどっぷりと重 い曲だ。ずいぶん人気があるらしいが、私はあまり好きではない。ソプラノサックスが静かに前奏をして、ヨッチさんが歌いだす。すると、苦しい情念の歌かと 思っていたらそうではない。どう聴いても、苦しさは前面に出ていない。切なくもない。不倫っぽい曲なのに。どうしたことかとステージ全体に目をやると、分 かる分かる分かるヨッチさんの心が分かる、‥いやいやいや、分かるなんて思っちゃいけない、分かるなんてそんな僭越なこと、だいいち何の根拠もない、これ はあくまで一つの妄想、けれどこういう時っていうのは、ほとんど確信めいた思いを消し去ることができないものだ。私の仮説が正しければ、ヨッチさんは今、 かなりいい気分だ。気持ちよく歌っている。すごくお客さんが聴き入ってくれている。他のミュージシャンとの音のやり取り。ライブが成功している。この場で 歌える喜び。‥そういう今日のヨッチさんを通して聞くからなのか、STAYは、想像していたような「会えなくて苦しい」って歌じゃない。「会いたい、会い たい、ただ会いたい」っていう純愛の歌だ。「どんな形であれ出会えて、好きになれたことの幸せ」を表現する歌だ。STAYはもともとそういう曲だったのか な。こんなSTAYは大好きだ。





 ステージから来るものもあれば、客席から伝わって来るものもある。お客さんの雰囲気がいい。これがいわゆる「一つになっている」と言う状態なのだろう。 再びトークになる。トークはやたらリラックスムードで、曲とすごいギャップだ。合間でこのくらい力が抜けるほうが、客にとってもちょうど良いのかもしれな い。ラジオの罰ゲームでヨッチさんが作ったという、「筋子の気持ちを考えたことがあるかい」という歌が歌われる。かなりのギャグソングで、可笑しい。客席 から「CDにしてえ〜」と声が飛ぶ。いい曲だから、スーパーの魚売り場で流れたりしないのかなあ。
 




 「盛り上がって行きましょう!」と二人が立ち上がり、「虹のかかる青い空」、この曲の歌詞と、地平線みたいな、ちょっと変わった響きが好きだ。そのまま 「bu:m」「ときめかないで」へと、アップテンポの曲をガンガン行く。ギターを弾く二人の身体のキレが良い。なんか、運動神経が良さそうだ。もうすぐラ イブが終わりなのかな。そういう雰囲気だ。ちょっと短めのライブだけど、確かにいつまでもこのテンションでは行けまい。すると、「ときめかないで」が終 わった直後、ふいにアカペラになる。「泣きながらKissして」。こんなにぶっ飛ばしてきて、バラードの、聴かせる曲をやるというのか。いくら自信がある とは言え、息を整える間を取らなくて大丈夫なんだろうか。‥‥と焦ってしまったが、全く要らぬ心配だった。一言一言、やわらかいハーモニーが降ってきた。 自由に歌うヨッチさんのヴォーカルが拍と合っていないのに、ヒデさんがなぜアカペラでぴったり「入り」をあわせられるのだろうか。ヒデさんの視界の角度は 何度ぐらいあるのだろうか。‥いやしかし、今日はそういうことを分析するのはよそう。二人が描きだしてくれるままの絵を見よう‥。





 アンコール、アンコールと声がかかり、二人が口々に「ありがとうございます」と言いながら出てくる。

ヨ「僕たちは今年でデビューしてから10周年で。この業界で10年やっていけたらなんとかいけるんじゃないかって言われて、10年っていうのを目指して やってきたところがあるんですけど。だからまた10年、こうやって、回っていこうと思ってるんです。また、次はお友達を連れてきていただけたら、嬉しいな あと思うんですけど」
客「連れてくるよ!」(笑)
ヨ「連れてきてね(笑)。だけど毎回ね、人数とか僕たちは関係なくて、いつも変わらない気持ちで歌ってるつもりなんです。来てくれた人が、思い出になるラ イブになればいいなあというのがあって。今日も、その人の思い出に入っていけたらいいなあなんて思っていたんです。皆さんほんと一生懸命聞いてくれて。こ んな暖ったかいのも、久々だなあと思います。僕、弟の芳彦は、こんなことしか言えないんですけど」
客「立派やった」(爆)

ヒ「原点の歌、デビュー曲です。『24時間の神話』聴いてください。」
今日は、この曲を迎え入れるお客さんの空気と一緒に聞く。暖かい暖かい、24時間の神話。

ヒ「今の歌は、知ってる人もいるんじゃないかと思うんですけど。当時60万枚のヒットで。でも、ヒット曲で始まれば、またヒット曲をって思うし、ヒット曲 を出すために作ってるみたいなのがあって。ほんとに楽しんで音楽やってなかったなあっていう感じで。今ほんとの意味で、歌い始めた中学高校時代に戻ってる 感じで。あの頃ほんと楽しかったし。僕らは今、アマチュアの人達と同じようにストリートライブもやっていたりして。原点に返って今改めて、人の前で歌う楽 しさを感じてて、気持ち的に乗っていたりするんです。とにかく1人でも多くの人にほんとに聞いてもらおう、まず聴いてもらってから、好きじゃないとか、悪 くないとか思っていただいたらいいなあというのがあるんです。
 今日はほんとに、あったかい形で。ほんとに部屋で歌ってるみたいな感じで、楽しく僕らもライブできました。最後に、もう一つ僕らにとってスタートライン の曲があって。北海道からプロを目指して、東京に出てきたときは21歳だったんです。誰もかまってくれなくて、29歳でデビューすることになりましたけ ど。北海道千歳空港から羽田に降り立つまで、急になんかその時、北海道、故郷から離れてしまうんだと急にいとおしく感じて。でもプロになるんだと期待感、 夢があったり。不安もあったり。いろんな気持ちが入り混じってて。千歳空港から羽田に降り立つまでの、僕らのスタートの気持ちをかいた歌があります。『は じまりはALONE』という歌を歌って、今日は最後にしたいと思います。どうもありがとうございました!」





 初めての土地でのラストの曲ということで、並々ならぬ集中力で演奏された「はじまりはALONE」は、あきらかに、「歴史に残る名演」だった。あとにも 先にもこれ以上の演奏はなかろうと思われた。遠く響かせる声はステージの上方奥から響き、近くでささやくような声は、客席のすぐそばで産まれた。人間の声 はここまで自由に空間を使えるのか。文字通り四方八方から聞こえてくる、交差する思い。行かなければそれはそれで幸せな人生、でも夢に見る光。飛行機の シートの中、自分の周りだけが、しんと静かになって時間の流れが止まっている。「ALONE‥」という声で、2羽の白い鳥が風に乗るのを見た。息を呑むほ ど、なめらかな軌跡だった。





 ‥と、そんなVOICEライブでした。終電へと急ぎながらライブハウスの階段を降りていると、「良かった良かった、○○も来ればよかったのにね」と、おじさん達が話す声が耳をかすめていきました。
 連れていった夫はもともと邦楽嫌いなので、感想が気になって尋ねてみると、
夫「いや〜〜すごいね、自由自在やったね。こう(首の根っこを)掴んで、ほれ、ほうれ、って揺さぶりようみたいやったね。」

私が、最後の曲で、飛行機に乗って手紙読む場面がすごく良かったと言うと、
夫「何それ?」
私「最後の曲たい」
夫「ああ、あの曲ね、良い曲やね。うまかったね。」
私「あれが飛行機の歌やんか」
夫「は?そう?知らんかった。」
私「知らんはず無かろうもん」
などと話していて分かったのは、夫がまるきり歌詞を聴いていないということだった。
夫「歌詞やら聴いたこと無いたい。だいたい理系の者に、『主人公の気持ち』やら言われても、分からんよ。人口の半分は理系なんやけん、そういう人、多いんやないかね。数学ができても国語で0点取るような奴は、歌詞聴いても分からんくさ。」
‥‥‥さ、さいですか。
そう言う夫は、歌と曲、そしてリードギター&トークのヒデさんが気に入ったらしい。
夫「特に、トークがいいね。VOICEの人は、押し付けんやん、話を。そのへんの普通の話やんか。何の思想もないけん、いいね。」

‥まあ、どんな形であれ、気に入ってもらったからいいけど。どうやら音楽の聴き方というのはいろいろあるもののようで。それぞれの人がいったいどんなふうに音楽というものを聴いているのか、尋ね回ってみるのも面白いかもな、と思った夜でした。


 *VOICEのオフィシャルホームページは、http://voice-fan.net//です。




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