第21回フォーカシング国際会議体験記
催眠療法体験記
 2009年5月12日。フォーカシング国際会議in淡路島は、瀬戸内の凪とホスピタリティの中で始まり、急速に旋回し、フォーカシングのクワイエットな人たちの心の中に阿波踊り的興奮を残しながら、16日に閉会した。
  私はフォーカシング国際会議に出席したのは今回が初めてだ。あの面倒見の細やかさと、スケジュールの充実ぶりが、例年のものなのか、日本の準備委員の先生方による日本だけの特別な頑張りのお陰なのかが分からない。だから以下に書くことは、かなりの私見だが、今後発表者として参加者として、この学会に出てみようかと考えておられる方にとって、部分的にでも参考になれば幸いである。


1 概要

 初日夕方の全体会で、御挨拶・諸注意に留まらず、短いペアフォーカシングをするあたり、この会は学会であると同時に国際的なフォーカシングコミュニティーなのだなと実感させられる。
 2日目からが本格的な学会となるが、朝9:00からの「朝の集い」は30分ほど自由参加の全体会で、朝っぱらから有名人のガイドで集団フォーカシングをやる。午前に1つ、昼に2つ、発表枠があり、それぞれ10ほどの発表が並ぶ。発表といっても、通常の発表あるいはシンポジウムのほかに、3時間の「ワークショップ」と称する発表があり、けっこうこれが多い。従って、体験、それも目新しいフォーカシング体験がけっこうできるのがこの学会の特徴だ。(しかも、フォーカシングなので、他の学会よりも英語がゆっくりしているのが有り難い)。

 発表の合間を縫って、全員が班に所属し小グループで語らう「ホームグループ」、同じ関心を持つ参加者が集う「インタレストグループ」もある。夜は夜で「フォリーズ(余興大会)」等、お楽しみセッションが開催される。そんなことを22:00ぐらいまでやっておきながら、翌早朝には浜辺で「ヨガ」。とても全部には出られない。けれどけっこうフルに近い参加をし、朝の集いであくびをしている外国人の方々も居た。余興に出たいとエントリーする人も後を絶たず…、たぶん、フォーカシング国際学会は、5日間にわたる長いお祭りなのだ。


2 発表の例
 どのような発表があったかを、いくつかピックアップし、参考までに挙げさせていただく。

(1)J.Klagsbrunさん ワークショップ『大好きなことにフォーカシングする』 
 ポジティブ心理学会の会員としても活動しておられるKlagsbrunがおっしゃるには、「ポジティブなフィーリングは、ネガティブなフィーリングよりも、すぐに消えてしまいやすい。だからポジティブなフィーリング(愛)を留めておく練習が必要。愛は、苦しみを乗り越えることを、支えてくれる。」とのこと。Klagsbrunさんのガイドで
@「大好きだったこと」のワーク、
A「今大好きなこと」のワーク、
B「大切な人」のワーク
を、体験させてもらった。
 特にBでは、会場が良い涙で包まれた。

(2)C.Geiserさん 発表「停止したプロセスにいかに取り組むか」  
 「停止したプロセス」とは、ジェンドリンの最新の哲学、プロセスモデルの用語。長期の病気を抱えた人が体験する、何をやってもいつも同じ、と無力感を感じるような状態もそれにあたる。そんな時どうやって動きを作り出していくかというと、質問をすることや、小さな遊び心のある身体の動きをセラピストが提案していき、身体を一緒に動かしたりすることが有効である。(Geiserさんはスイスの病院で長年、心身症の方にフォーカシングを行い、心身症のクライエントさんには言葉だけのセラピーは難しいというのが持論である。)

(3)L.Rappaportさん ワークショップ『フォーカシング指向アートセラピー』
@ フォーカシング的態度のエクササイズ(今日、アートセラピーをするにあたって、自分の内側をどんなふうに取り扱うといいのかなあと感じて、それを表現してみる)、
Aアートに慣れるためのウオーミングアップのエクササイズ(様々な線を描いてみる)、
Bカンバセーション・ドローイング(ご著書のp198〜204に掲載有)、
C 自分にとって必要なもののワーク(今の自分は、何を必要としているのかな。と感じて、それを表現。)  
 フォーカシングにアートを取り入れると、推進が促進される、とRappaportさんは話されたが、それが実感できるワークショップだった。

(4) L.Hurstさん ワークショップ『「間にあるスペース」の中で生きることによる自然の抱擁』
@ 自分の内側にあるスペースを感じるワーク、…までは普通にあり得るものだったが、それからあとは、なかなかチャレンジングで、でも、案外可能だった。
A 人と人との間のスペースを探検する。−3人組になり、自分の内側のスペースを、3人のスペースに提供する。3人から提供されたスペースの感じを感じてみる。−私は、右の方から透明な緑、左の方かからはお花のような質の空気を感じた。
B 空のスペースのワーク。−外に出て、皆で一つの円をつくる。今日今まで体験した感じを、全体の場に差し出して、シャトルにして、打ち上げてしまう。−みんなで「オオオオオ、発射!ワー」などと叫ぶと、自分の中にあったものが空に放出された気がして、気持ちよかった。


3 発表者として  
 今までPCEやAPAといった国際学会を見た印象では、国際学会においては発表内容の緻密さは問題ではなく、発表テーマに関する肯定的な愛を伝えきれるかどうかがポイントだ。私の発表も、もちろんこれを心がけたが、同席の青木氏、川崎氏、上西氏といった院生が、池見先生や中田先生のご指導とはいえ、初めての国際学会において、十分に肯定的な感情で話せているのには驚いた。

 個人的にはもう一つ、平井達也氏と一緒に、ワークショップ「フォーカシングとキャリアライフプランニングの統合」をさせていただいた。大切な過去の体験を感じてもらったり、イメージの中で未来の自分に会いに行ってもらった。そうした新作のワークを、日本人の方にやっていただくのもドキドキものなのに、外国の方に教示をする。緊張を沈め、「ムードに国境はない」と自分に言い聞かせ、声を水にしていくと、日本人の方も、外国人の方も、内側のプロセスを進めておられる。それを見るのは、正直、嬉しいものであった。個人の話を詳しく書くことはできないが、外国人の方は、よい体験と言えばこちらの想像を超えるような非常にスピリチュアルな経験をお持ちだったりして、そのあたりが国際学会だなあと、世界の広さと近さを感じた3時間だった。


4 余談  
 さてこのような忙しい学会で、びっちりスケジュールをこなしているにもかかわらず、さらに「わー、これにも行きたいのに」と思ってしまうのが、人間の欲張りなところである。
 L.Rappaportさんのワークショップと同時間にあった、カナダのMarine de Freminvilleさんの、バックグラウンドフィーリングに関するワークショップ。これがどうしても気になり、休憩時間に扉の隙間(1cm)から覗くという無駄な抵抗をした挙句、終了時間に出て来る人を待ち伏せした。福岡の福盛氏、本州のK持氏、その他ゆっくりと出て来る人の、顔、顔、顔。今まで感じたことのない透明感と緩み。ああ、このワークショップは、ただものではなかったんだ。

 福盛氏「いや〜。良かったよ。すーーごく良かった。深い!深いね。あんなに深いワークなのに、やれちゃうんだよなあ。大丈夫?大丈夫?って言いながらさ。マリナ子さん(注、マリナさんは、かなりひょうきんな人で、自分のことをこう呼ばせていた。)の人柄だよね。苦労した人なんだよね、それを超えて、マリナ子さんがあるんだねえ。バックグラウンドフィーリングを、無理して取ろうってんじゃなくてさ、それを超えたところに、違う世界が広がっているかもよ、って。そういわれると、見れちゃうんだよね〜」。
 K持氏「ほんっと、良かったですねー。バックグラウンドフィーリングには、自分のじゃないものも入っているかもよ?、ってところとも、良かったですね。」
 福盛氏「いや〜良かった、ほんと丁寧で良かった、すごかった、」
 分かった、分かった、みなまで言うな。聞かなくたって、分かるよ!

 マリナ子さんとは、ホームグループが一緒だったので、カナダでワークショップをなさっているかどうか尋ねてみた。そうすると、あまり芳しくない答えだった。どうやら、マリナ子さんは、フランスから呼ばれてワークショップに行くことはあるらしいが、カナダで定期的なワークショップがあるわけではないようだ。

 ………。
 我慢できない。
 福盛氏に相談し、決めた。最終日、全体会を終えて廊下を歩いてくるマリナ子さんを待ち伏せした。
 「マリナ子さん、Did you enjoy Japan?」「アーとっても素晴らしいかったわー、人、食べ物、すべてよ、(略)帰りたくないわ。」きたきた。言うぞ。「We both live in Fukuoka, south part of Japan, So……」マリナ子さんを90度の角度で挟んだ福盛氏と私が、3センチずつ間合いを縮めて次を言おうとした瞬間、マリナ子さんのほうが叫んだ。「えっ、私を呼ぶって?まあ嬉しい!フクオカって言ったわね。フクオカ、なんかこう、懐かしい響きだって思ってたのよ!!」


 ……ウソだろ!(笑)。
 ……いや、これくらいの人になると、本当かもしれない。本当に、予感していたのかもしれない。

 ただし、福岡は、2010年にフォーカサーの集い、2011年にはアン・ワイザーさんを呼ぶ予定なので、「3年後に来て欲しい」と言うと、マリナ子さんは少し遠い目になり、そして、気を取り直して、「64歳ね、それまで元気でいるように、がんばらなくちゃ。」と、言った。

 ……大丈夫だろう(笑)。
 マリナ子さんを日本で最初に呼ぶのは、福岡。  


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 以上、第21回フォーカシング国際会議の感想でした。
今思うと、マリナ子さんを呼ぶことに決めたのは、祭りの勢いだったと思いますが、後悔はしていません。開催の際には、全国の皆様のご参加を心よりお待ちしています。  

 あと、帰ってから気づいたのですが、同じホームグループに所属していたもう一人の外国人の方は、自分ついこの前論文で引用させていただいたばかりの人でした。
 ということで、(もちろん、予備知識なくても楽しめる学会ではありますが)、雑誌Focusing Folio や、ニューズレターのStaying in Focusなんかに目を通してから行くと、かなりミーハー気分を楽しめる学会かもしれません。





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