大学の教員になってみると、学生から極めて頻繁に「催眠ってどうなんですか」 と、尋ねられることに気づいた。一般にテレビに出る心理療法といえば催眠で、劇的な変化があるように見えるからだろう。尋ねられても私には的確に答えること ができなかった。催眠の実習は九州大学の学部生だった頃、大神先生のゼミで催眠誘導の実習をやったことはあるが、誘導までの実習だったので、催眠で心理療法を行うというのがどういうことか、私はほとんど知らなかった。
 そもそも催眠療法を行うセラピストやカウンセラーは、通常の病院、大学附属の相談室などにおいては、一般の人が考えるよりもずっと少ない。精神分析の始祖であるフロイトが、次第に催眠をやめて自由連想法に移った理由は、催眠がセラピストへの強い依存を引き起こすケースがあること、催眠にはかかる人とかからない人がいること、そして、通常の心理療法でもやや時間をかければ催眠で起こるのと同じような気づきが起こり、かつ、そうやってゆっくりと気づいていったほうが定着が良いこと、だったという。現在の日本で、大学において催眠を教える教官が少なく、従って私たち臨床心理士の中で催眠の習得をしている人がさほど多くないのも、フロイトが言ったような理由からと考えられる。
 催眠を用いるのは主に、催眠療法の看板を掲げ街中のビルの一室等で開業している人である。これらの人の多くは、ホームページでプロフィールなどを見たところ、臨床心理士の資格を持っていないようで、従って大学でカウンセリングを専攻したわけではなないようだ。彼等は催眠の領域独自の修得システム(と思われる)に従い、催眠に特化した勉強をした人たちだ。私達臨床心理士は、彼等と机を並べた経験がなく、彼等がどれくらい勉強をしたかが全く分からないことから、「ああいう人は、能力がある人はあるんだろうけど、看板だけの人や、カリスマチックにふるまう怪しい人もいるんじゃないの。」などと、壁の向こうのものを想像で品評している。
 2003年、一年度限りの教養科目「東洋と西洋の心理療法」(心理療法の世界史のようなもの)を担当した私は、この科目が文化専攻の学生を対象としたものであることと、学生の関心の高さから考えて、その単元に催眠療法を入れるべきではないかと考えた。そして、せっかくの機会だから自分が夏休みを利用して催眠療法を体験してみることにした。
 結論から言えば、たいへん面白い体験をした。
 実際の授業における催眠の単元は、 催眠のメカニズムと、自立訓練法を中心に行ったが、催眠療法の様子について、私の体験を少し話させてもらった。そして学生が将来も し興味を持ち催眠療法の門を叩く時には、いたずらに期待を煽るようなセラピストは避け、あらかじめ催眠について実際に即した説明をしてくれるような人を選ぶと良い、とつけ加えた。

【セラピールームの選択】
 できれば安心なところを選びたい。とは言っても、先に述べた理由で、私の周りには巷のいろいろな催眠療法士達の評判をよく知っている人はいない。それに、もし学生が行くとしたらホームページを通してだろう。そこでホームページで検索したが、関東か関西ばかりで、九州のルームは見当たらない。そう言われれば、博多で、街を歩いていて催眠療法の看板に行き当たった経験は無い。100万都市ぐらいでは個人開業の経営は成り立たないのだろうか。
 そこで、吟味の上、関東圏から2つのルームを選んだ。それぞれ、ホームページの感じが良く、催眠についての丁寧な説明が載っていたり、体験談があったりで、内容、及び料金が明確に示されていた。一つは東京の吉祥寺(たまたま土地勘もあったので助かった)、もう一つはちょっと遠いが、横浜になった。

 以下、二つのルームにおける体験記を記載する。記憶に基づいての再生だから多少不確かさはあると思う。二つ目の記録は、やたら長い。臨床の記録を読み慣れていない人には、長いし、だからどうだったということをあまり書いていないので、辛いかもしれない。特に催眠に入る前までが長い。しかし催眠療法というのはそういうもののように思われる。

 
☆ 催眠療法体験記(1) 自己催眠
☆ 催眠療法体験記(2) 年齢退行

☆ 催眠療法体験記(3) 過去生退行 
‥続編です。2006年1月up
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