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  • 特別対談 映像の世界を目指すなら必見!どこが違う?特長は?九芸映像3専攻

特別対談

  • 伊藤伊藤:今日はお集まりいただきありがとうございます。いま、映像に興味を持つ高校生が増えているんですが、九芸には12専攻のうち3つの専攻に映像を学ぶ場があります。映像の道へ進みたいけど、どの専攻を選んだら良いのか迷う人たちもいると思うので、九芸で映像を学べる3専攻について、どんな違いがあるのかお聞かせいただきたいと思います。まず、黒岩先生からメディア芸術専攻の特徴をお聞かせいただきますか?
  • メディア芸術専攻
    DEPARTMENT OF FINE ARTS AND MEDIA SCIENCES

    アーティストを育てることを重視する
  • 黒岩黒岩:「メディア芸術」って言葉は最近よく耳にするようになりましたが、もともと1997年から始まった文化庁の「メディア芸術祭」から生まれた言葉なんです。メディア芸術祭はアート部門、エンターテインメント部門、アニメーション部門、マンガ部門の4つの柱からなるコンペティションです。共通しているのは新しいテクノロジーを使うということです。以前はサブカルチャーと呼ばれていた要素を多く含んでいますが、それらを「新しい芸術」の対象とするというのがメディア芸術のポリシーなんです。本専攻でも、その4つの柱があり、かなり広い範囲を学ぶことになります。
  • 伊藤:具体的には、どんなことを学ぶのでしょう?
  • 黒岩:アニメーション作家を目指す学生もいますし、マンガを突き詰めたい学生もいますが、全部のジャンルを学んでもらいます。たとえば、アニメーションと映像をミックスすることで表現の幅は大きく広がりますからね。共通してあるのは「動きをつくる」という学びでしょうか。スクリーンの空間の中の動きをどうデザインするか?クリエイティブするか?を学びます。ほかにも企画やストーリー、脚本づくり、演出や、音楽系の演習も行います。
  • 伊藤:音楽は映像と表裏一体ですから、大切なことですね。
  • 黒岩:本専攻は、芸術表現学科にありますので「アーティストを育てる」という視点を大切にしています。アート性の高い作品を世に送り出していく人材を育てたいと考えています。メディア芸術の場合、つくった人の名前と作品が結びつきやすい傾向にあると思います。
  • 伊藤:作家性が高いということですね。個人の力が試される、生かされるということですか?
  • 黒岩:そうです。個人のアーティストとしての価値を高めたいと考えています。個人がコンセプトを考え、方向性を決めて、演出まで行う。そして、アートの価値をしっかり高められるアーティストを目指してほしいですね。
  • 映像メディア専攻
    DEPARTMENT OF PHOTOGRAPHY AND IMAGING ARTS

    卒業時に現場でプロとして働けることが目標
  • 佐藤佐藤:映像メディア専攻では、映像に関わるすべての領域を学びます。映画、テレビ、3DCG、ミュージックビデオ、プロモーション動画、センサーを使ったインタラクティブ動画、最近ではVR、AR、MR※といわれるようなコンテンツ制作も。そしてプロ仕様の機材、施設、ソフトウエアを使って学べるのが特長です。

    ※VRは「仮想現実」、ARは「拡張現実」、MRは「複合現実」を意味し、現実には存在しないものを知覚できる新しい技術。総称してXRとも呼ばれる。

  • 伊藤:そんなに充実した設備環境で学べる場は希少ですね。
  • 佐藤:新しい施設づくりも進めているんです。「ライブXRスタジオ(仮称)」というスタジオが生まれようとしています。
  • 伊藤:それはどんな施設なんですか?
  • 佐藤:コロナ禍の影響で、いま社会ではライブ配信の需要が高まっている背景もあるのですが、3次元のバーチャル空間やバーチャルキャラクターを活用したコンテンツをつくる施設も必要だろうと。そこで配信とバーチャルを合体させることにより、新しい映像を探求していくのが今後の目標です。
  • 伊藤:カリキュラムには、どんな特長があるのでしょう?
  • 佐藤:まったく映像をつくったことがない学生が来ても、卒業時には現場で働けることを目標にしています。しっかり基礎から積み重ねて、最終的には映像制作会社に就職できるスキルを身につけます。1、2年では基礎的なカメラやマイクの使い方、動画編集や3DCGソフトウェアの使い方、ドキュメンタリーやモーショングラフィックスの制作を学びます。また、デッサンや造形など、表現の基礎となる内容も学びます。上の学年になっていくと最前線でご活躍中のプロの皆さんを招いて授業を行なっていただき、即戦力としての実力を養えるようにしています。
  • 伊藤:すごいですね、即戦力って。私も広告会社にいたのでCM制作の現場を知っていますが、下積みの時代を何年も積み重ねて、やっと独り立ちできるのが当たり前の世界ですから。
  • 情報デザイン
    DEPARTMENT OF SOCIAL DESIGN

    人が、地域が抱えている課題を解決すること
  • 岩田岩田:ソーシャルデザインでは、街が元気で人々が幸せに暮らすより良い未来をデザインすることを目標に掲げています。情報デザインは、わかりやすく言うとWebですね。ICTを使って社会をおもしろくできるか?どうやったら情報をわかりやすく届けられるかを学んでもらう専攻です。Webの構造を考えると写真はあるし、映像はあるし、文字はあるし、いろんな分野を集約しているメディアです。メディア芸術専攻、映像メディア専攻と比べると、領域が重なる部分も多いけど「グラフィック」の色がいちばん強い専攻です。
  • 伊藤:私もグラフィックデザイン出身なので興味ありますね。どんなカリキュラムなのですか?
  • 岩田:視覚情報伝達を幅広く学んでいきます。グラフィックデザインでロゴをつくってみたり、フォトショップで写真の合成をしてみたりして、それを実際に動かしていく。映像化することにより視認しやすくなるし、情報が伝わりやすくなるんです。本専攻にはアートの要素は少なく、あくまでも社会に機能するデザインです。あくまでも困っている人がいて、その課題を解決するために、どう情報伝達したらいいのか?効率的なプロモーションのお手伝いができる人材を教育します。
  • 伊藤:問題解決力を身につけるのですね。
  • 岩田:また、パソコンで動かす分野なので、プログラミングの要素は強く、そこもしっかり学んでもらいます。Webなので複数存在する映像やコンテンツをどうやって連動させていくかとかも学びに含まれています。
  • 各専攻で、現在取り組んでいる研究テーマは?
  • 伊藤:先生たちが、いま取り組んでいらっしゃる研究などをお聞きしたいのですが?
  • 作品
  • 黒岩:私が、いま取り組んでいるのは、映像表現の理論的な研究と技術的な研究です。映像の可能性は、日々進化しています。テレビなどでふれる商業映像だけではなく、その外側にある世界にもっとおもしろいものがあるんじゃないかというようなことを探求しています。
  • 伊藤:新しく開発されたデバイスでどんな映像をつくれるだろうとか?
  • 黒岩:技術的なことだけではありません。日々変化していく人と世界との関係の中で、映像にどんなことができるのか?少しでも新しい役割を発見していきたいんです。
  • 作品
  • 佐藤:私は、映像で地域の産業や文化を活性化する取り組みを学生といっしょにやっています。伝統工芸や町の活性化に役立つ映像コンテンツづくりです。博多人形や高取焼などのプロモーション映像や、デジタルサイネージをつくってきました。映像メディアの他の教員もおもしろいプロジェクトをたくさん展開していて、水族館にあるクジラの骨格標本にタブレットをかざすと3Dのクジラが表示されるシステムや、水害や防災について学べるセンサーを使った体験型装置など、新しいテクノロジーを使った映像コンテンツも開発されています。
  • 岩田:私は基本的に「自分でこれをやりたい」というのはなく、地域の方から「こんなことがしたい」「こういうことで困ってる」とお声がけいただいて、どんなお手伝いができるか?を考えます。いまは「プロジェクションマッピング」がキーワードです。花火大会って大混雑しますよね。そこで来場者向けの誘導案内をマッピングで行い、インタラクティブな大きなサインとして活用することを主軸に研究しています。
  • 伊藤:関門海峡の花火大会で実際に体験しましたが素晴らしかったですね。とてもナビゲーションがわかりやすいし、もし看板をつくったら廃棄物が出てしまいますが、電気を消せばなかったことになるところもすごい。
  • さまざまな分野に広がる卒業後の進路
  • 黒岩:分野が広いものでひとことではいえないんですが、映像系プロダクション、アニメーション制作会社、ゲーム制作会社、マンガ家になる人も含めてさまざまですね。一般企業への就職もあります。映像によるエンターテインメントを研究していた学生が、某寿司チェーンに就職した例もあります。いまは映像によるコミュニケーションはどんな業種でも重要ですから。
  • 作品

    VR「Campus」卒業制作

  • 伊藤:ビジュアルランゲージは伝わる速度が速いですよね。とくに映像は。
  • 黒岩:何が美しいのか?魅力的なのか?知っていて、直感的な洞察力をもっていることは、これからの社会でとても求められることだと思います。
  • 佐藤:映像メディアでは、映像制作会社や番組制作会社、ゲームやアニメーションの3DCG制作に関わる職種などが多いです。卒業してすぐに起業する人もいます。
  • 伊藤:今は独立しやすい環境が整ってますよね。昔は、とても高価な設備がないとできなかった編集が、パソコンでできますからね。個人にスキルがあれば、ポンと独立、起業できる時代になりましたね。
  • 黒岩:メディア芸樹も映像メディアも、就職先って、ほぼ重なっていますね。
  • 作品

    映画「エンドラン」卒業制作/ミュージックビデオ「YELL - the tapirs」撮影風景

  • 伊藤:メディア芸術がアート系だとすると、映像メディアはコマーシャル系ということでしょうか?
  • 佐藤:そうですね。本専攻は、商業的な意味合いが強いと言えるかもしれないけど・・・
  • 黒岩:コマーシャルとアートの境界線って曖昧になっていますよね。それはそれでいいと思います。
  • 佐藤:むしろ区切ってはいけないんでしょうね。境界線を引くんじゃなくて、目指すことの周辺も広く学んでほしいですから。
  • 伊藤:専攻を選ぶにあたっては、まず、どこに興味があるか?まず、何にチャレンジしたいかを入り口にしたら良いのかもしれません。
  • 岩田:情報デザインの場合は、やはり、Web制作会社がわりと多いですね。映像もグラフィックもやるので、映像の編集スタジオ、グラフィックデザインの会社へ就職する卒業生もいます。通販会社でデザイナーをしている卒業生もいますよ。映像会社からユーチューバーになってる人も。一般職営業へ進んでも、わかりやすいプレゼン資料をつくれるとか、広報スキルが優れている点を重宝されるという面もあります。
  • どんな学生が向いている?
  • 伊藤:各専攻の学びに向いているのは、どんな人でしょう?
  • 作品

    「Charm Star」コンバースの経年変化とコーディネートを楽しめるビデオログサイト制作

  • 黒岩:メディア芸術が目指しているのは100年残る作品です。四世代保存したくなる映像って、けっこう大変だけど、ぜひチャレンジしてほしい。また、メディア芸術は問題を提起していくことを大切にしています。社会や時代に対して、きちんと問題意識を持てる人に学んでほしいですね。
  • 佐藤:スマホ、インターネットの進化で誰でもかんたんに映像を作り発信する時代ですが、だからこそ心に残る映像をつくることが難しくなっています。それを専門的に学べるのが本専攻の特徴です。変わり続ける映像の世界にあわせてアップデートしていける向上心と好奇心を持っている人を待っています。
  • 作品

    「プロジェクション × ブラックボード」チョークの線とプロジェクターによる映像を融合させた作品

  • 岩田:大学で学ぶってことは何かを習う場所じゃないんです。研究者として学びを深め、知識を教えてもらうんじゃなくて、いろんな体験を重ねて新しい知識を発見するのが研究です。これからAIの進化で人間のやるべき仕事は変わっていきます。先を読みながら行動できる人に来てほしいですね。
  • 伊藤:今日は、貴重なお話、ありがとうございました。
  • 作品

    「一陽来復」日本舞踊とプロジェクションマッピングの融合