淺間審査委員長,吉見審査委員,森田審査委員の先生方の講評を掲載します.

淺間一審査委員長(日本機械学会ロボティクスメカトロニクス部門 部門長,東京大学教授)

二次選考会の最終審査に残った5件の作品は,いずれも学生の作品としては,機能性とデザイン性において,非常にレベルが高く,最優秀賞,優秀賞を決定するのは容易ではなかった.技術的とデザイン性を両立させることは容易ではないが,それを克服するための努力が認められた.実用面からは,実際に使用したくなるような魅力と利便性,安全性の検討,多様な人への適応性なども考慮すると,さらなる改善が期待できる.以下に作品ごとのコメントを記す.

自動爪もみ装置「つめたまご」

 自律神経を刺激し,免疫を高めるための装置開発,という発想自体が,ユニークで独創的である.様々な人の手にフィットさせ,ツボをうまく刺激できるような機構に改善できれば,非常に期待ができる装置になるであろう.

圧力センサを用いた全方向に移動できる車いす「Gravi Chair」

 全方向移動と体重移動による操作という点に,技術的な工夫が求められる.白と赤を基調としたデザインに特徴があり,従来の車いすの概念を超えた美しさがある.転倒しないための安全性も考慮するとなお実用的になるであろう.

電気刺激を利用した家庭用リハビリ装置

 電気刺激によって筋肉を収縮させ,麻痺や運動機能の低下に対するリハビリを行わせる装置であり,有用性が高い.安価な電極を製作し,実際に構築した試作機でその機能を示すなど,高度な技術力と努力が認められる.デザインについても,モックアップを作るなど,具現化までできると,なお良かった.

指のトレーニングロボット

 ひざが手でつかみやすい形であることに注目してデザインした指先運動のリハビリ装置という点が興味深い.手先のトレーニングの仕方にもう少し工夫をするとなお良い.学部2年生と3年生の二人のペアによる作品であるという点で目を見張るものがある.今後のさらなる躍進に期待したい.

「エアルボー」エアバッグを利用した自動肘屈伸運動補助装置

 寝たきりや片麻痺における肘関節の拘縮を防止するための,腕の屈伸運動リハビリ装置である.非常にシンプルな構造であり,空気圧を使っている点で安全性も高く,実用性が高い.デザインの印象もよい.日韓のコラボによる作品である.国境を越えてのコミュニケーションなど,様々な困難があったと思われるが,それを乗り越えて,よい作品を完成させたことを高く評価したい.実際にリハビリ効果を生じさせるには,空気圧をよりパワフルにし,人に応じて調整できるようにするとなおよい.

吉見卓審査委員(日本機械学会ロボティクスメカトロニクス部門 技術委員長,(株)東芝

 今回、第一次審査を通過した5つの作品を審査しましたが、どれも力作ぞろいのすばらしいもので、作品紹介のプレゼンテーションを大変興味深く拝見させていただきました。ロボットやメカトロニクス機器のデザインは、目的とする機能を形にするものであり、特に、その機能が動きによって実現されることから、そのデザインには目的の機能を十分に発揮できる形と、造形的な美しさや新しさの両方が求められます。そこに、ロボティクス・メカトロニクス機器のデザインの難しさがあり、どちらか片方が不足すると、デザインは良いけど使いにくいとか、機能は良いのだがデザインが今ひとつ、といったことになります。今回の審査で、私はその両者のバランスという点に注目した評価を行いました。結果として、各作品におけるこのバランスのわずかな差が、最優秀・優秀賞受賞という形に現れたのではないかと思います。以下、各作品について、簡単にコメントします。

・大分大学チームの「自動爪もみ装置−つめたまご」は、アイデアが面白い作品です。実際の使われ方がもう少し検証されると良かったと感じました。

・福岡大学+九州産業大学チームの「圧力センサを用いた全方向に移動できる車いすGravi-Chair」は、デザインが優れた作品で、プレゼンテーションも良かったです。実用性の点で、もう少し工夫があると良かったでしょう。

・最優秀賞を受賞した、九州工業大学+九州産業大学チームの「電気刺激を利用した家庭用リハビリ装置」は、機能の高さの影にデザイン的な特徴が少し隠れてしまいましたが、優れた機能を実現した完成度の高い作品でした。

・九州産業大学チームの「指のトレーニングロボット」は、良く検討されたデザインの作品と感じました。ボタンのON/OFF以上の機能があると、なお良かったかと思います。

・優秀賞を受賞した、嶺南大学(韓国)+長崎大学チームの「エアバッグを利用した自動肘屈伸運動補助装置−えあるぼー」は、安全も考慮されたコンパクトな機構にまとめられており、よく検討されたデザインの作品でした。

 今回で、ロボメカ・デザインコンペも第2回目となり、多くの優れた作品が集まりました。来年度は、さらに多くのすばらしい作品が集まることを、楽しみにしております。

森田昌嗣審査委員(九州大学大学院芸術工学研究院教授)

 本年度の第1次審査を通過した5点の作品は、昨年度に比べ、いずれも技術と感性の融合を図った秀作でした。特に、「電気刺激を利用した家庭用リハビリ装置」は、効果的なリハビリを家庭で手軽に行えることを目的に、工学面での綿密な検証に基づく機能性に合致した形態にまとめ、機能と感性のバランスのとれたデザインであることから最優秀賞に選ばれました。そして、エアバックを利用した自動肘屈伸運動補助装置「えあるぼー」は、日韓協働による簡潔な機構と素材を用いたスリムでコンパクトな完成度の高いデザインであり、最優秀賞に匹敵する優秀賞となりました。また、圧力センサを用いた全方向に移動できる車いす「Gravi-Chair」は、魅力的なデザインが高く評価されましたが、機能面でやや課題が残るために、惜しくも佳作となりました。佳作を受賞された「指のトレーニングロボット」と自動爪もみ装置「つめたまご」は、ユニークな発想からの意欲的な作品ですが、機能面と形態面を結びつけるためのさらなる検討が必要であり、再チャレンジを楽しみにしております。

 昨年度も申し上げたように、「デザイン」は、機能に色やかたちを与えるだけでなく、機能(技術)と形態(感性)を融合させ、“ものの価値を可視化する”ことに、その役割があります。機能と形態の融合は難しい課題ですが、本コンペは、専門分野間や大学間のコラボレーションにより、その課題に取り組む学生達の意欲と自由な発想を感じさせる有意義なものでした。次年度も、エンジニアやデザイナーを目指す学生諸君のクリエイティビティ豊かな作品の応募を期待しております。